公認会計士 Mrナカタが2025年の崖を解説
これからの経営者に必要なITリテラシーとは?
2020年03月05日
2025年の崖とは?
経済産業省は、既存システムでは新しいデジタル技術を導入したとしても、データの利活用や連携が限定的であり、その効果も限られてしまうという問題を「2025年の崖」と言い表し警鐘を鳴らしています。
その原因が、現在多くの日本企業が利用しているシステムの「複雑化」と「ブラックボックス化」です。
「複雑化」は、システム化の際に、自社の従来の業務をあまり変えたくないということで、導入したソフトウェアについて、おびただしいアドオンやカスタマイズを加えることで、標準機能以外の独自機能があちこちにあって、システムが単純な仕組みではなくなっている状態です。
「ブラックボックス化」は、複雑化にも関連して、システムを構築・導入した当初の担当者が異動や退職でいなくなり、システム化した際の前提だった業務や組織に変化が発生した際に、どのマスタを変更すればよいのか、どのアドオン・カスタマイズ部分を作り替える必要があるのかなどを、きちんと理解している人がいなくなっている状態です。
「複雑化」も「ブラックボックス化」も放置していると、まずは現場の作業がシステムと合わなくなることで、結局手作業が増えるという本末転倒な状況になるのです。
さらに、会社の実態をデータで収集するスピードも遅くなり、十分なデータも収集できない「網羅性」の問題も発生します。最終的には、経営スピードが遅くなり、実態が把握できないまま経営判断を行うことにもなるのです。
このように、老朽化した基幹システムが残存する日本のITシステムの危機的状況に対して、多くのコストや人的リソースを費やすことで、新しいデジタル技術にIT予算の資源を投資できなくなり、企業のグローバル競争力を低下させているとも指摘されています。
また、既存システムが事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができずに、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)を阻害する足かせとしても課題視されています。
この「DX」という概念は、私たちの生活の中に高度に発展した最新のデジタルテクノロジーが適切に浸透していくことにより、より良い暮らしへと変革していくという意味が含まれています。
冒頭の課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大で12兆円/年もの経済損失が生じる可能性があるとも指摘されています。
根本の課題は日本人経営者のITリテラシー
このように、「2025年の崖」が大きな課題として取り上げられる背景には、経営層のITリテラシーの低さも一因です。
日本の経営陣の中には、経営にとっていかにITが大事か?という視点が欠落している方もいることで、そのことが事態をより深刻にしていると言えます。
では、ここでいうITリテラシーとはなんでしょうか?ビジネスシーンでもよく聞く言葉ですが、サラリーマンにとっては、テクノロジーやシステム全般、ソフトウェアサービスを生活の一部、又はビジネススキルとして使いこなせる能力といった意味で用いられることが多いでしょう。
しかし、経営者にとっての意味合いは少し異なります。経営者にとってのITリテラシーとは、経営をする上でシステムがどれほど重要なのかを理解しているか?ということです。
システムを「費用対効果」という視点でしか見ていない経営者が日本には実に多くいます。
>日本の経営者は、ITとはコスト削減のツールだと思っている人が大多数なのではないでしょうか?ですから、費用対効果でしか稟議が落ちないのでしょう。これは非常に情けない話です。
「コスト削減」目的だけで、システム導入を検討することは、業務効率を向上させたり、経営判断の適時化・適切化を生む有能なシステムの選定ができず、システムの価値を十分に生かすことはできません。
これだけテクノロジーが浸透した社会の中に生活していながら、日本の経営者は未だに、ITのことを理解していないし、わからなくてもいいと思っているのが現実なのです。
ITは単なるコスト削減ではなく予測精度を高めるツールでもある
経営者の役割は、経営資源の合理的な配分にあります。「人」「モノ」「お金」を無理なく、無駄なく適切な場所に配分して、会社の利益を最大限に引き上げることこそ、経営者の仕事と言えます。
これはつまり、経営資源を儲かるところに集中させるということに他なりません。儲からないところには投下しないのが鉄則です。
そのためには儲かるところはどこなのか?の予測をしっかりと立てならなければなりません。
ところが、儲からないところに人がいっぱいいるのが日本の姿です。正確には、儲かっていた部門に多くの人が残ったまま放置されていると言えるでしょう。
日本の経営者が見ているのは売り上げや利益といった単なる会計数値に止まり、月次で決算をやって、売り上げと利益がいくらになったのか?予算は達成したかどうか?などにばかり注目しがちです。
達成していなかったら、なぜ達成できなかったのかの分析に膨大な工数をかけて、結果が出ると責任追及に走ります。
このように「過去の数字」をいくら集計し分析していても、それらはあくまで「過去のデータ」であり、経営資源を儲かる場所へ投下するための未来予測を反映したものにはなかなかなりません。
「過去のデータ」を、過去を分析するためにではなく、将来の予測のために使わなくてはいけないのです。
ITやシステムを単なるコスト削減として捉えるのではなく、経営のために未来予測を高めるためのツールとしてどのように活用できるか?そのように考え方をシフトしていかなくてはいけないのです。
システムというのはもはや、その会社の価値を上げる基盤とまで言えるものになっています。IT技術をうまく活用することによって、将来の予測値の精度をあげ「どこに投資するのか?」を決定する。そのような本質的なIT技術の意義に日本の経営者も気づかなくてはいけません。
「コスト削減のためのシステム化」から、「将来予測経営のためのシステム化」への変化です。これこそ、従来のシステムの使い方の延長線で改善するのではなく、全く新しい使い方への変化です。
正しく「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」、デジタルによる『変革』を進めましょう。
これからの経営者にとって重要な視点とは?
テクノロジーの進化に伴い、私たちの生活には日々新しい製品やサービスが誕生しています。国民のほとんどが今やスマートフォンを持ち情報検索能力を備えた現代では、AIスピーカーやIoT、ARやVR、キャッシュレスといったデジタル技術はもはや私たちの生活から切り離すことはできません。
そんな急速に変化していく社会の中で、注目されるデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)。ビジネスシーンにおいては、既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものとも定義されています。
将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して、これまでになかったビジネスモデルを創出する。ポイントは、「トランスフォーメーション」が変換ではなく"変革"という意味だということ。つまり、非連続なものだということです。
本質的にITがコスト削減ではないことの意味がここに示されています。このままでは、日本の経営者自身が未来に暮らす人々を阻害するレガシーシステムとして、変革の足かせと揶揄されかねません。
「過去の数字」とにらめっこしているだけでは未来は見えてきません。本来のシステムの意味は、「コスト削減」を謳い工数を減らすことではないのです。
システムは、より迅速に、正確な経営判断をするためのものであり、経営の意思決定をサポートするのが本来のシステムの意味です。
「費用対効果」ではなく、「経営的価値」にいかに投資するか?それこそが、未来の経営者が持つべきITリテラシーと言えるのではないでしょうか。
投稿者プロフィール欄
監修: 公認会計士 中田清穂
一般社団法人日本CFO協会主任研究委員。公認会計士。
1984年明治大学商学部卒業、1985年青山監査法人入所。
2005年に独立し有限会社ナレッジネットワークにてIFRS任意適用、連結経営、J-SOXおよび決算早期化など、決算現場の課題解決を主眼とした実務目線のコンサルティングにて活躍中。
会計システム導入事例
SuperStreamを含む会計システムや会計システム周辺のソリューションの導入によって経理業務の改善を実現した事例をご紹介します。会計システム導入や活用にお悩みの方のご参考にしてください。