公認会計士 Mrナカタ
”ウィズコロナ時代”の経理に必須な部門を超える「思考力」
2020年10月06日
1.「今までどおり」形式のなかで牧畜される哀しき経理
日本の経理は、現在にいたるまで紙に一定のこだわりを持って業務を行ってきました。
1円単位でも合っていない場合は、なぜ合わないかをとことん追求する生真面目さがそこにはあります。
経理の人は、この生真面目さゆえに、新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が出された後も、感染する危険を冒してまで出社し続けました。
企業のトップから「在宅勤務をするように」と言われないかぎり、経理は哀しいまでに会社に出社し続けることでしょう。
経理のテレワークを実施するためには、どうしても企業のトップの認識を変える必要があります。
緊急事態宣言が出されたときも、なぜテレワークをしなければならないのか、その目的をトップがきちんと理解できていれば、費用対効果云々という話にはならないはずなのです。
しかしながら、トップの人間の認識を変えることは非常に難しく、彼らから「経理部門を変えなければ」という声はほとんど聞かれないというのが現実です。
2.「間接業務」に経営者が無関心な理由
日本の経営者や役員には、間接業務(経理・総務・人事)の生産性の向上や効率化を図ろうとする人はほとんどいません。
あくまで間接業務は、売上に直結する直接業務(営業・製造・開発)をサポートする仕事と捉えられているためです。
この間接業務の生産性が、世界と比較すると日本は非常に劣っています。
欧米の企業には、「間接業務の生産性を上げるためにはどうすればいいだろう」と、問題意識を持ち対策を考える役員がいます。
しかし日本の企業には、間接業務の生産性について責任を負う役員は存在しません。
つまり最高財務責任者(CFO)はいるものの、経理の生産性について対策を考えるという本来の役割を果たしていないのです。
経営者やCFOが、「今年の経理はこのくらい生産性を上げよう」と目標設定をしないこともひとつの原因でしょう。
反対に、現場で働く経理から「テレワークをできるようにしてください」、「クラウドを導入しましょう」、「電子契約システムを検討してください」など、起案する人がいないことも問題です。
そもそも日本の経営者は、経理や総務、人事についてほとんど関心がないというのが実情です。
このような間接業務は売上に影響しないから、というのが本音なのでしょう。
社長が経理にかける「しっかりやってくれよ」という言葉に、期待のなさが伺えるのではないでしょうか。
社長が経理に期待することは、法律に違反しないようにきちんと経理処理をしてほしいということだけかもしれません。
人事に対しても同様で、人事管理を「しっかりやってくれよ」という声がけに、その期待のなさが現れています。
3.経理部門の真の役割とは
経理や人事、総務部門の存在意義とはどのようなものでしょうか。
今一度、彼らの存在意義について考え直す必要があります。
経理の仕事は、決算を行い税務署に申告するだけではなく、企業にとって重要な経営情報を作成することです。
社長が、経営の指針となる情報を作成する部門に対して無関心であるため、社長のほうから「このような情報がほしい」といった要望が出ることはほとんどありません。
とりあえず、税務申告さえ問題なければという考え方が根底にあるからです。
とくに中小企業において、このような傾向がよく見られます。
上場企業の経理は、決算のための書類や金融庁に提出する書類、また株主総会で使う書類を作成することに追われますが、考えてみるとすべて企業の外部向けの書類です。
社長、ひいては企業にとって役立つ書類を作成することが経理本来の仕事であるはずなのですが、内部向けの情報を作成する時間は圧倒的に少ないというのが現実です。
欧米においては、経理部門は経営に役立つ情報を作成する仕事に時間を割くため、実績を固める決算業務の生産性を上げる努力をします。
「経営に役立つ情報とはどのようなものなのか?」、「その情報はいつどこで必要なのか?」、など仮設を立て検証し結果を出す。もし間違っているならまた最初から仮設を立て直す、というプロセスを繰り返し、経営に必要な情報の精度を徐々に上げていきます。
つまり経理は、決算書類や税務申告のための書類を作成するために時間を使うのではなく、「考える」ことに時間を割かなければいけないのです。
このように経理が経理本来の役目を果たすことで、経営直下の部門となり得ます。
現在のところ、経理の実情は理想からは程遠く、義務的な作業に終始しているといえるでしょう。
4.「人財」は誰かに”発見”されなければいけない
次に、間接業務の人事に目を向けると、多くの人事は社員に研修を受けさせることを自分たちの仕事だと思っているようです。
そのため、外部からさまざまな研修カリキュラムを探してきては社員に画一的な研修を受けさせることに時間を費やします。
人事の役割は、自社にとってどのような社員が貢献できるのかを分析し、経営的視座においてどの部署にどのような人材が必要なのかをモデル化し、限りある人材をどのように育てていくことが経営戦略上最適なのかを思案することにあります。
しかしながら日本の社長は、経理と同様、人事についても関心が低い傾向にあります。
社員を育てるのは、経営者の自分ではなく人事部門の長の仕事だと考えているからです。
よく経営者や中間管理職の人が自社の「人材不足」を嘆いているのを聞きますが、それは責任放棄というものでしょう。
社員個々人に対して、きめ細かく見る人事部門の努力もなく「人財」が勝手に育つということはありません。
社員ひとりひとりに対しどのような能力を持っているのかを専門部署として把握し、どのように育てていけば各部署の社員の能力を最大化できるのかを考えていくことが必要です。
また、その過程においてウイズコロナの時代を迎えた社会情勢を踏まえ、テレワークで離れて業務を行う社員の個々の能力と経営的成長をいかに密接に繋げていくかが人事部門の本質的な役割として求められています。
5.社会課題の解決のための”戦略”こそがビジネス
ビジネスをするうえで最も大事なことは、社会のなかの課題を発見しその解決策を考える課題発見能力です。
さらに、その課題は大きければ大きいほどマーケットも大きくなり、ビジネスチャンスは広がります。
しかし、日本の経営者や部門の長は「今は困ってないから大丈夫」と、課題を見つける力を備えていません。
なぜなら、小さい頃からそのような教育を受けてきていないからです。
「社会のなかのここに問題がある、だからこうした方がいいだろう」と上から指示されるのを常に待っている状態であり、本質的な課題を見つけることも、解決策を講じる力も持ちえていません。
「誰かが課題を発見し、誰かが解決策を考え、私はそれに従うだけ」というマインドの人が大半を占めています。
ビジネスにおいては、このような待ちの姿勢ではなく、「この社会や業界、また世界はどうなっているのだろうか」と考えを巡らし、「この問題に対してこのような戦略が有効だ」と目的思考を強く持つことが不可欠です。
「今は困っていないから大丈夫」という現状維持の考え方は、新型コロナウイルス流行時に見られた危機意識のなさに通ずるものがあります。
テレワークを行う真の目的は、「社員の健康と命を守るため」ということを理解していた企業の経営者や部門の長はどれほどいたでしょうか。
この目的をきちんと理解していたならば、費用対効果云々の話は本来であれば出ないはずです。
社会のなかのどこに問題があるのか、その問題解決のために複数のビジネスプランを立て、損益分岐や財務分析、統計的手法によってビジネスの成功確率を測りながら起業を試みたり、経営戦略を間接部門として数値的側面から定量的かつ統計的な予測としてサポートしていく。
そのような課題解決のための戦略は単なるマインドとは違い、効果検証を繰り返すことによってその計画に裏付けと根拠が加わり、現状を変える大きな力へと発展する可能性を秘めています。
それは上からの指示を待ち、ただ受け身に仕事をこなしている部門に埋没した人材からは決して生まれない「プランと実証」を備えた戦略的な思考と言えるでしょう。
このように個人では解決できない、社会的な大きな課題に対して解決への道筋を見定め、活動していくことが会社や組織に課せられた本来の役目なのです。
昨今のコロナ禍における目紛しく変動していく過酷な社会情勢を鑑み、どのような課題を見出し解決への道筋を発見できるか?
組織における間接業務や経理の働き方を含め、今一度、経理担当者の役割と働き方について見つめ直す時が訪れているのではないでしょうか。
投稿者プロフィール欄
監修: 公認会計士 中田清穂
一般社団法人日本CFO協会主任研究委員。公認会計士。
1984年明治大学商学部卒業、1985年青山監査法人入所。
2005年に独立し有限会社ナレッジネットワークにてIFRS任意適用、連結経営、J-SOXおよび決算早期化など、決算現場の課題解決を主眼とした実務目線のコンサルティングにて活躍中。
会計システム導入事例
SuperStreamを含む会計システムや会計システム周辺のソリューションの導入によって経理業務の改善を実現した事例をご紹介します。会計システム導入や活用にお悩みの方のご参考にしてください。