2019年4月に施行された
改正労働基準法の内容
第1回 時間外労働の上限規制・年休取得の義務化を確実に進めるには①
2019年09月26日
社会保険労務士 深瀬 勝範
2019年4月1日、改正労働基準法が施行され、働き方に関する新ルールが運用されることになりました。現在、多くの企業の人事・総務部門が、その対応に追われています。
このコラムでは、働き方に関する改正労働基準法の内容を解説したうえで、新ルールへ効果的に対応している実例や対応のポイントなどを紹介していきます。
1. 改正労働基準法のポイント
今回の改正労働基準法では、次の2点が新たに盛り込まれました。
(1)時間外労働の上限規制
時間外労働の限度時間が次のように定められました。(労働基準法第36条第3~6項)
①時間外労働の上限は、 原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない。
②臨時的な特別の事情がある場合(36協定の「特別条項」に定める場合)でも、時間外労働は次のとおりとする。
- 年720時間以内
- 2~6か月間を平均して月80時間以内(時間外労働には、休日労働の時間を含む)
- 1か月100時間未満(時間外労働には、休日労働の時間を含む)
- 原則とされる「月45時間」を超えることができるのは、年間6か月まで
(2)年5日の年次有給休暇(年休)の取得の義務づけ
年休が10日以上付与される労働者について、年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務となりました。(労働基準法第39条第7項)
これまでは、36協定で定めた限度時間を超えて時間外労働をさせてしまったとしても、また、労働者が年休を1日も取得できなかったとしても、労基法違反を犯したことにはなりませんでした。
ところが、これからは、年720時間を超えて、あるいは月100時間以上の時間外労働をさせてしまうと、または年休が10日以上付与される労働者の中から取得日数が年5日未満の者が1人でも出てきてしまうと、使用者は労基法違反を犯したことになり、最悪の場合、刑罰が科されることになります。
2. 改正法への対応に向けて必要なこと
現在、各社の人事・総務部門が法改正への対応を行っていますが、中には「就業規則改定などの対応はしたものの、実際の働き方は何も変わってない」というケースも見られます。
このようなケースでは、会社としては「時間外労働を限度時間内に抑えよう」、「労働者に年休を取得させよう」としているものの、労働者のほうが、「自分の仕事が忙しい」という理由で、長時間労働をしてしまう、年休を取得しないということが多く見られます。
ここで、会社が強制的に時間外労働を禁止したり、休暇を取得させたりすると、労働者が仕事を家に持ち帰る等の新たな問題を生じさせることにもなりかねないので、そうするわけにもいきません。
時間外労働を限度時間内に抑えることも、年5 日の年休を取得することも、労働者の理解と協力を得ながら、各自が自主的にそれらを実践していくように仕向けなければなりません。そのためには、会社は、まず「長時間労働の弊害」を労働者に知ってもらうことが必要です。
今回の法改正で定められた時間外労働の上限時間は、いわゆる「過労死ライン(過労死や健康障害などが発生するリスクが高まるとされる労働時間)」を基準として設定されています。
つまり、「時間外労働の上限時間内に抑えることによって、過重労働による健康障害を防ぐことができる」ということを労働者に理解してもらったうえで、自分の健康維持のために長時間労働を抑制しようとする意識を持ってもらうようにしましょう。
そのうえで、就業管理システムなどを整備して、労働者が自分の労働時間をリアルタイムでチェックできるようにすることも必要です。例えば、時間外労働が上限時間に近づいた労働者には、「時間外労働を控えましょう。それが難しい場合は、上司に相談しましょう。」などの警告メールを発信して、時間外労働を適切に管理するように促すことも効果的です。
ところで、職場によっては、「フレックスタイム制が導入されているのでもともと労働時間管理を労働者に任せている」というところもあるでしょう。次回のコラムでは、そのような職場における対応について解説します。
3. 複雑な就業体制やコンプラインアンスにも対応する働き方改革時代の就業管理システム
4. アフターコロナは、「戦略人事」によって、企業間競争の優劣が決まる
アフターコロナの時代には、「経営企画部門」として再編された総務人事部門が、「戦略人事」を実現できているかどうかによって、企業間競争の優劣が決まるといってもよいでしょう。
ですから、総務人事関係者は、厳しい状況下にあっても、アフターコロナに向けて「業務フローの抜本的な見直し」と「総務人事部門の再編」を進めて、戦略人事を実現する体制を整えていかなければなりません。
ところで、総務・人事業務の見直しを行う中で、現行の人事総務システムを再構築すること、または、給与計算などを委託している業者(アウトソーサー)の見直しを検討すること等が、一つの課題となります。
そこで、次回のコラムでは、人事総務システムの再構築やアウトソーサーの選定のポイントについて説明したいと思います。
著者プロフィール
社会保険労務士:深瀬勝範
Fフロンティア株式会社代表取締役。人事コンサルタント。社会保険労務士。
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社などを経て、経営コンサルタントとして独立。
人事制度の設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動など幅広く活躍中。