技術部門やシステム部門等の
長時間労働者への対応
第3回 時間外労働の上限規制・年休取得の義務化を確実に進めるには③
2019年09月26日
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社会保険労務士 深瀬 勝範
時間外労働を月100時間未満とすること、労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させること等を使用者に義務付けた改正労働基準法が2019年4月1日に施行されました。
「当社は、改正労基法に定められた時間外労働の上限や年休取得義務を守れるのだろうか」と不安に思っている経営者や人事関係者は少なくありません。
とくに技術部門、システム部門、研究開発部門等では、長時間残業を繰り返す、あるいは休暇を全く取得しない労働者が存在し、この者を放っておくと、その会社は、まず間違いなく労働基準法違反を犯すことになってしまいます。
だからといって、上司や人事部門が、これらの労働者に対して、「時間外労働の上限を守りなさい」等と注意すると、「無理な設計・開発スケジュールを設定していることが悪い」等の不満を言い出したり、仕事を自宅に持ち帰るようになったりして、新たなトラブルが発生してしまいます。
長時間労働者や年次有給休暇を取得しない労働者に対して、会社は、どのように対応すればよいでしょうか?
1. 「指示する」のではなく、各自に「自主的に取り組ませる」ことが効果的
長時間残業を繰り返す労働者や休暇を全く取得しない労働者を改正労基法に対応させるうえで、次のような措置が効果的です。
(1)時間外労働が多い者などに対して、人事関係者が個別面談を行う
前年度の勤務実績のデータから、月80時間を超える時間外労働を行ったことがある者や年次有給休暇の取得日数が5日未満の者をリストアップして、人事関係者が、それらの者に個別面談を行います。
個別面談では、長時間残業の防止や休暇取得のために何をするべきか、本人と人事関係者の間で話し合います。
(2)月の半ばで一定の時間外労働を超えた者とその上司に警告メールを送信して、注意を促す
月の半ばで時間外労働が一定時間を超えた場合、および1年の半ばで年次有給休暇の取得日数が一定日数以下の場合、その者と上司に警告メールを送信して、職場での注意を促します。
勤怠管理システムに、このような警告メールを自動送信する機能を組み込んでいる会社もあります。
(3)目標設定や開発スケジュール設定時に、労働者本人に時間外労働の見込み時間等を申告させる
技術部門やシステム部門などでは、各自の業務目標や開発スケジュールを設定するものですが、その際に、時間外労働の見込み時間や休暇の取得予定も労働者本人に申告させるようにします。
これらの者には、「法律で定められた時間外労働の上限を守りなさい」と言うよりも、「自分で定めた見込み時間や休暇取得予定に従って、設計・開発を進めてください」と言ったほうがよいのです。
2. 裁量労働制を導入したところで、時間外労働の上限規制を免れることにはならない
ところで、技術部門やシステム部門等には裁量労働制を導入している会社では、業務遂行にかかる労働時間をあらかじめ労使協定で定めてしまうため、月々の時間外労働の算定を行わず、実質的に、時間外労働の上限規制が適用されない状態になります。
そこで、労基法改正に当たり、「時間外労働の上限規制が適用されないように、当社も裁量労働制を導入しよう」と考えている人もいらっしゃるでしょう。しかし、それは止めておいたほうが無難です。
今回の労基法改正にあわせて、労働安全衛生法も一部改正が行われ、そこでは、(裁量労働制適用者も含む)すべて労働者の労働時間の状況を適切な方法で把握することを使用者に義務付けています。
今後、会社は、裁量労働制の適用者であっても労働時間の状況を把握し、それが時間外労働の上限を超える状態であれば改善することが求められるようになるでしょう。つまり、裁量労働制を導入したところで、時間外労働の上限規制を免れることにはならないと考えるべきです。
結局、改正労基法に対応するためには、長時間労働者に時間外労働を減らしてもらう、また、休暇を取得してもらうしかありません。人事関係者は、これらの者への説得を続けながら、労働時間や休暇取得の状況を本人と上司が把握できるシステムを整備していくことが必要です。
3. 複雑な就業体制やコンプラインアンスにも対応する働き方改革時代の就業管理システム
著者プロフィール
社会保険労務士:深瀬勝範
Fフロンティア株式会社代表取締役。人事コンサルタント。社会保険労務士。
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社などを経て、経営コンサルタントとして独立。
人事制度の設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動など幅広く活躍中。