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「リモート化、ペーパーレス化、複雑な労働時間管理への対応」と「戦略人事」

第13回 アフターコロナに向けて行うべき総務・人事業務の見直し①

2020年09月08日

社会保険労務士 深瀬 勝範

新型コロナウイルス感染症防止対策、働き方改革への対応などにより、日本企業は、従来の総務・人事業務を抜本的に見直す必要性に迫られています。
アフターコロナは、総務・人事業務の見直しの成否により、企業業績に大きな差がつく時代になるでしょう。
このコラムでは、今回から3回にわたり、日本企業が行うべき総務・人事業務の見直しのポイントや進め方について解説します。

1. 新型コロナウイルスによって総務・人事業務に大きな変化が生じている

新型コロナウイルスによって、日本企業の総務・人事業務には大きな変化が生じています。
変化の一つとして最初に挙げられるものは、「リモート化の広がり」でしょう。
新型コロナウイルス感染防止対策として、2020年3月頃から、都市部の会社を中心にテレワーク・在宅勤務の導入が急激に進みました。
今では、会議、商談、そして職場内の飲み会まで、リモート化が進んでいます。

社内手続きのペーパーレス化も急激に進んでいます。
テレワークを広げるうえで、「紙とハンコ」によって行われる、日本企業特有の事務処理が大きな障害になります。
そこで、この機会に、総務・人事業務について、パソコンの画面上で処理できるように見直す動きが活発化しています。

労働時間管理にも大きな変化が生じています。
労働時間管理の最重要課題は、これまでは「長時間労働の防止」でした。
ところが、新型コロナウイルスの影響で企業活動が低下したことにより、2020年4月以降は、多くの企業で残業時間が減少しています。
つまり、新型コロナウイルスによって、「長時間労働の防止」という長年の課題が一気に解消されて、それに代わり、「テレワークやフレックスタイム制などの複雑な働き方において、労働時間管理を適正に行うこと」が新たな課題として浮かび上がってきたのです。

2. 総務・人事業務の変化は、新型コロナウイルスが流行する前から進んでいた

「リモート化、ペーパーレス化、複雑な働き方の広がり等は一時的なもので、新型コロナウイルスが収まれば、働き方も社内手続きも元通りになる」と考える人がいらっしゃるかもしれません。しかし、その考え方は誤りです。

実は、リモート化やペーパーレス化、労働時間管理の変化などの動きは、新型コロナウイルスが流行する前から始まっており、これまで着実に進んできています。ですから、新型コロナウイルスが収束したとしても、それらの動きが止まる、あるいは後戻りするということはありえません。

リモート化は、ITの進歩などにより、2000年ごろから導入が始まりました。2017年からは、総務省などと東京都、経済界が連携して、テレワークを一層広げる運動(テレワークデイズ)を推進しており、今では、IT企業を中心に、在宅勤務やワーケーション(観光地での勤務)等、リモート化の特長を活かした働き方が積極的に導入されています。

ペーパーレス化については、マイナンバーやe-gov等の電子申請手続きが導入されたころから、積極的に進める動きが出ていました。2020年春から資本金1億円以上の企業に対して社会保険の一部の手続きを電子申請で行うことが義務付けられ、また、同年から年末調整手続きが電子化されます。このような行政手続きを皮切りに、事務処理のペーパーレス化・電子化が急速に進んでいます。

労働時間管理については、テレワークやフレックスタイム制が広がりだしたときから、柔軟かつ複雑な働き方への対応が重要な課題となっていました。そこで、タイムカードへの打刻により行っていた労働時間の記録を、各人がスマートフォンから入力する仕組み等に変える動きが進んでいます。

新型コロナウイルスの流行により、リモート化やペーパーレス化等に対応してこなかった会社は、「出社できない状態で、どのように仕事を進めればよいのか」と、いまだに四苦八苦しています。一方、それらに対応してきた会社は、大きな影響を受けることなく、アフターコロナに向けた準備を着々と進めているのです。

3. 新しい働き方・仕事の進め方に乗り遅れている企業は、早急に対応しなければならない

今回の新型コロナウイルスの流行は、新しい働き方・仕事の進め方に乗り遅れている会社と対応してきた会社との差を浮き彫りにしたものと言えるでしょう。これらの動きに乗り遅れている会社は、アフターコロナを見据えた総務・人事業務の見直しを早急に進めていかなければなりません。

これまで述べてきたとおり、新しい働き方・仕事の進め方に対応するときのキーワードとしては、「リモート化、ペーパーレス化、複雑な労働時間管理への対応」の3つが挙げられます。これに加えて、アフターコロナにおける人事管理を行うときのキーワードとして「戦略人事」を挙げることができます。

今こそ、日本企業の経営者や人事関係者は、アフターコロナに向けて、「リモート化、ペーパーレス化、複雑な労働時間管理への対応」および「戦略人事」の4つをキーワードとして、総務・人事業務の見直しを行っていかなければなりません。
「そういうことは理解しているが、どこから手を付けたらよいのか分からない」という人も多いことでしょう。そこで、次回は、アフターコロナに向けた総務・人事業務の見直しの進め方について説明します。

著者プロフィール

社会保険労務士:深瀬勝範
Fフロンティア株式会社代表取締役。人事コンサルタント。社会保険労務士。
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社などを経て、経営コンサルタントとして独立。
人事制度の設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動など幅広く活躍中。

社会保険労務士:深瀬勝範

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