セミナーレポート2020年度 診療報酬改定の乗り越え方

2020年度の診療報酬改定は働き方改革に関わる新しい点数や引き上げが特徴的です。今後病院はどのような対策を取っていくべきなのか、急性期病床の行方や医療従事者の働き方改革について長英一郎氏(東日本税理士法人 代表社員)に解説していただきました。

1.2020年度の診療報酬改定のポイント

今回の診療報酬改定の特徴の一つは、働き方改革に絡む新しい点数や引き上げに関する内容となっていることです。

今まで行われた診療報酬の改定では、収益がメインとして考えられていましたが、今回の改訂では新たに利益についても着目することがポイントとなります。また診療報酬改定にあたり、単価の上げ下げだけで考えることはおすすめできません。なぜなら、単価が上がったのに患者数が下がる場合があるからです。

例えば入退院支援加算を得ようとすれば単価は上がるのですが、早期の退院では患者数が下がります。患者数が下がると結果的に収益が落ちてしまうため、収益を上げたい場合は稼働率も意識することが重要です。

今後の働き方改革への対応に伴って、費用の上昇やIT機器の活用を加味する必要があります。しかし一方では残業代の支払いも発生します。そのため、収益だけでなく費用の見積りも併せて進めることが望ましいでしょう。

改定シミュレーションを作る際には、結果的に「利益として上がるのか下がるのか」という観点で見ていくことが、今回の厚労省の考え方に合致させるポイントとなります。

2.薬剤総合評価加算

薬剤総合評価調整加算に関しても、今後はより広く普及していくという想定がされています。そのため、他院や診療所、薬局同士が連携して薬を減らす取り組みが大切です。

また、日本調剤のアプリ(お薬手帳プラス)も有力なツールの一つです。このアプリを見れば、今まで飲んできた薬の一覧をスマートフォンで見ることが可能です。また、服用中の薬が後発医薬品なのかについても全て表示させることができます。

改定後は、薬の一括管理の評価が予想されます。もし一括で管理できるのであれば、減薬に対して前向きに進めることができるでしょう。しかし、患者様によって減らせる薬の種類は限られているため、ケースバイケースで考えることが大切です。

院内調剤や薬の材料費が高めの病院を例にメリットを挙げると、薬を減らすことによって費用が抑えられ、結果的に経済的な利益が得られます。また、薬の種類次第では転倒防止につながることも期待できるでしょう。

3.管理栄養士の配置

今回の改定では、前回の改定と同じように注目されている職種が2つあります。一つが管理栄養士、もう一つは歯科衛生士です。この職種は手薄になりがちなので、新規採用では特に意識しておくとよいでしょう。

また改定にあたり、管理栄養士についての記載もあります。特に今回はICUへ管理栄養士を配置する場合も評価されるようになっています。また、急性期の部門でもこの管理栄養士の配置は重要です。

診療報酬の点数に対していくつか議論はありますが、職員のモチベーションも大切です。そのため診療報酬制度の遵守を意識するようにしましょう。例えば、急性期の重症度基準を満たすために心電図モニターを付けるようにすると職員のモチベーションを下げます。

4.ICTの活用

院内の連絡をスマートフォン上でのチャット形式にすることで、電話連絡の回数が減り、連絡時のストレス軽減や効率化を図り定着率を上げるといった事例もあり、今後ICTの活用で業務効率化を検討することも必要です。

その他にも
・電子カルテにパソコン入力していたものを音声入力にすることで患者情報の入力時間を短縮
・会議をPDF資料で事前に送ることで会議時間を短縮
といった事例もあります。

ICTを利用することで業務時間を短縮し、その分を勉強の時間に充てることができるため患者様へのサービス向上にも繋がります。
ICT利用で補助金が出るケースもあるため、積極的に導入すると良いでしょう。

5.認知症ケア加算

従来2種類の点数が、今回の改定で3種類に増えました。これは、できるだけ身体拘束をしないで認知症患者のケアをすることが目的です。なお、認知症ケア加算対象患者に身体拘束をすると、点数が4割減となるため、注意が必要です。

身体拘束がもとで訴訟が起きるケースもあります。中には訴訟を避けるために身体拘束をする病院もあるかもしれませんが、逆に身体拘束による病状の悪化や賠償命令が発生した例もあります。

身体拘束は切迫性と非交替制、一時性といった3つの要件を満たしていないと行うことができません。単に同意書を取れば行っていいという認識であれば、改める必要があるでしょう。

全国平均認知症ケア加算の分母で見てみると、身体拘束の割合は全国平均で28.7%となっています。手術を行うような急性期病院でも10%を切っているような病院もあります。

身体拘束の割合の高い病院は、同時に看護師の離職率も高い傾向があります。逆に身体拘束の割合が低い病院では、看護師の定着率が非常に高い傾向があります。

身体拘束の割合が低い佐賀県の病院では、認知症ケアユニットを作って家庭環境に近いケアを行ったところ、拘束率を6.1%に抑えることに成功しています。また、呼び出し数をグラフ化することで、主観的な考え方だけではなく、客観的データに基づいて身体拘束の可否が話し合えるように工夫しているそうです。

この病院で看護師の方々にアンケートを行ったところ、身体拘束をしないようにしてから、看護部の意識が変わったという結果が出ています。身体拘束をした方が自分たちの楽ができると思っていたものが、逆に身体拘束を解除し、重度の認知症方をケアユニットで集中的に管理することによって、結果的に看護師の負担軽減につながったそうです。

身体拘束をいきなり減らすことは難しいため、段階的に減らす工夫も大切です。まずは四点策の撤去から始めて、次に介護衣→手ミトン→抑制帯と徐々に減らしていくと、スムーズに身体拘束から離れることができるでしょう。

6.ACP

Advanced Care planningと呼ばれるACPは、終末期のケアや医療処置に関して、患者さんと話し合う機会を設けて欲しいというメッセージが今回の改定で含まれています。

ACPは地域包括ケア病棟の施設基準にもなっているのですが、実際にリビングウィルへサインする際や患者様との話し合いは医師自身も悩むものです。

また、ACPが要件に設けられたといっても、ただマニュアルを作って形式的に説明すればいいわけではありません。なぜなら、患者様にとって適切なタイミングを無視して行う場合もあるからです。白内障やポリペクで入院されるような患者に対してもACPの話をすべきかというとそうではないはずです。

7.排尿自立指導料

今回の改定にあたり要件が緩和となりました。特に膀胱留置カテーテルを早期に抜去できるようにしたいという背景があります。なぜなら、カテーテルをつけていると感染症や寝たきりになるリスクが高まるからです。

膀胱留置カテーテルを早期に抜去する取り組みには、リハビリやエコーで残尿を計測する方法が挙げられます。実際の改善データも残っており、尿便意のある方が49%から92%と倍ぐらいに増えたケースもあるほどです。ほかにもおむつを使っている割合が50%から3%に減った事例もあります。

ある病院の例では、カテーテルを留置していると、尿路感染症にかかり、その分入院日数が長くなる傾向がありました。早く抜去できるように取り組めば、入院日数も短く済むだけでなく尿路感染症など感染症のリスクを下げることが可能です。

8.介護医病院

医療療養病棟の要件が厳しくなっています。特に医療区分の2と3を8割以上に維持することが難しくなると予想されます。そのため、医療療養病棟のうち病床区分や病床単位で介護医療院への転換を検討するのもよいでしょう。

医療療養を介護医療院に転換するメリットとして、介護医療院が在宅復帰先にカウントされることが挙げられます。ほかにもベッドコントロールをするうえで、介護医療院の場合医療区分を気にすることがなくなるので、ストレスがなくなったというケースも報告されています。

9.オンライン診療料

オンライン診療料は、今回の改定でも比較的緩和されており、特に遠隔地医療を行う病院の場合は、有効に活用できる制度となりました。

オンライン診療料の点数自体はそれほど高くありませんが、診療所への訪問や在宅訪問をする必要がなくなるため、費用減となり収益を上げることが可能です。

医療資源の少ない地域では、一定の要件を満たせば初診からオンライン診療を使うことが可能です。

社会医療法人の方の例として、遠隔地までの移動に4時間かけているケースがありますが、2回に1 回の診察をオンラインで行うことで、その分の費用を抑えることが可能です。

また、オンライン診療とセットでオンラインでの服薬指導も可能ですので、通常の診療と組み合わせて行えば、患者様としても利便性が高まるでしょう。

今後の病院の生き残り策

今後の生き残り策として、主に3つの方法が挙げられます。

①ダウンサイジング
今回の改定では400床と200床という区切りが設けられています。400床以上の場合地域包括ケア病棟の新設が制限されたり、200床以上の場合紹介状のない患者に対して追加負担をお願いするなど。

病床数が400床、200床を微妙に超えている場合、病床を削減するかどうか考えどころかもしれません。病床のダウンサイジングを行うことに対して補助金が受けられるため、金額次第ではベッド数の削減を検討することも選択肢の一つとして出てくるでしょう。

補助金は、ベッド数を1割以上削減した病院に対して、国費84億円以上が計上されますが、47都道府県規模で考えると少ない金額ともいえます。

しかし、利用する病院が増えれば、この金額は上がることが予想されます。そのため、現在検討していない病院もベッド削減を視野に入れておくことをお勧めします。

②他病院との再編統合
改定に伴い総合入院体制加算の要件が緩和されました。そのため、産科や産婦人科のない医療機関でも、ほかの医療機関と再編統合を進めた際に、総合入院体制加算として認められます。総合入院体制加算を算定するために地域医療連携法人を活用する事例も増えるかもしれません。

③囲い込み
この方法は民間病院で検討したい戦略の一つです。生活支援サービスについて介護保険上の訪問介護だけではなく、自費としての生活支援を行うことにより高齢者の生活に寄り添うことができれば、何かあった時に病院を頼りにしてくれます。

【講師プロフィール】
長 英一郎(おさ・えいいちろう)氏

東日本税理士法人代表社員 所長、税理士、公認会計士
1997 年中央大学商学部会計学科卒業。2000 年公認会計士・税理士長隆事務所(現・東日本税理士法人)入所、
07 年公認会計士登録、12 年東日本税理士法人社員(パートナー)就任、14 年多摩大学大学院客員教授(18 年退任)、
16 年東日本税理士法人代表社員、所長就任。18 年中央大学大学院講師、学研ホールディングス社外監査役。
定期的に病院・介護施設の見学体験を行い、最新事例を提供する。クライアント病院には、患者視点を踏まえた医療経営のアドバイスを行う。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 事務局 総務部 総務課 調達企画室長
1991 年に国立病院医療センター(現国立国際医療研究センター)に就職。その後、▽国立横浜病院(現NHO 横浜医療センター)
▽国立療養所東京病院(現NHO 東京病院)▽NHO 災害医療センター▽国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)▽NHO 栃木病院(現NHO 栃木医療センター)▽NHO 久里浜医療センターを経て、18 年4 月から現職。従事した業務は、医事・契約・経理・給与・監査・財務・経営など多岐にわたる。

情報システム導入ならWorkVisionにお任せください。
資料請求などお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせいただく前に、お問い合わせいただく前の注意をお読みください。

お問い合わせいただいたお客様の個人情報は、SSLによって暗号化され保護されます。




事例紹介

コラム

セミナー・イベント

セミナー・イベント一覧