2020年5月12日
患者様により良い医療を提供するために、病院は設備投資を行います。しかし、医療機器にはコストもかかり、そのコストが大きければ利益も出しづらくなります。今回は、斎藤知二氏(国立国際医療研究センター調達企画室長)に病院としてどのような設備投資を行うべきか解説していただきました。
1.設備投資は何のために?
設備投資を行う最も大切な理由は、患者樣によりよい医療を提供することです。この回答は誰でも分かりきった回答のように感じますが、特に経営層の方には深く考えて頂きたい内容です。本当に華美な建物や高スペックな機器が必要なのかは吟味すべき点です。
そして重要なのは、設備投資にかかる費用は、日々の病院経営に必要な費用とも密接に関係するということです。現在皆さんが各医療機関で行っている経営改善の努力は必要不可欠です。例えば材料費にコストがかかり過ぎてしまうと、投資に回せるお金も少なくなってしまいます。
建物は病院にとって最も金額がかかる設備です。しかし、耐用年数も長いため、一度投資すれば40~50年使用しますので、毎年の減価償却費(費用)はこの長い期間で割るため、実際の金額は思っているよりも少なく感じるでしょう。
一方で医療機器は単体ではそれほど高額でない場合もありますが、院内には多くの医療機器があるので費用が積み重なってしまいます。特に急性期病床数の多い病院は、医療機器の費用は増加しやすい傾向です。このような機器の耐用年数は比較的短いので、設備投資として考える際は、忘れずに考慮しましょう。そして、医療機器の購入努力は医療機関側で行うようにすることも大事なポイントです。安易にコンサルタント業者を使用するのはおすすめできません。むしろ例えばグループ内の医療機関同士の情報交換、情報共有が重要です。分断されてはいけません。つながることこそ重要です。
また、電子カルテなどの情報システムは、投資金額も大きい上に、耐用年数が短めです。さらに一度導入してしまえば後戻りできず、かつ多額の保守費用も発生しますから、医療機関にとっては悩みの種です。ただし、システムのセキュリティといった最低限必要な部分にコストが発生することはやむを得ないということも認識しましょう。
※当日は、システム導入ポイントについて、具体的な事例を交えて詳細を解説いただきました。
2.電子カルテ導入のポイント
電子カルテは国内では1999年に採用されて以来、20年以上使われてきた画期的なツールです。取り入れる病院も増えてきており、400床以上の病院では85.4%の普及率となっています。しかし一般病院については、まだ半分ぐらいしか導入が進んでいないのが実態です。
電子カルテを導入する際に注意したいポイントとして、一度導入すると紙カルテ運用に戻すことが非常に難しいことは認識しておきましょう。また、導入には購入費用だけでなく、データ移行にかかる院内の労働コストや保守費用がかかることも覚えておきましょう。特に病床数が大きな病院はシステムが複雑化しやすく、その分運用にもコストが発生します。
それから、電子カルテは、別の部門システムなどシステム間の連携が課題となるケースもありますので、ベンダー選定時に認識しておきましょう。
電子カルテの導入費用の内訳はハードウェアとソフトウェア、作業費の3つに分けられます。ソフトウェアの価格はベンダーごとの違いがありますが、ハードウェアであれば時間をかけてリサーチすれば、ある程度必要な価格を把握することが可能です。また導入の際の工事費についても、ネットリサーチや2社以上の見積もりでコスト感が把握できます。
電子カルテの導入は、厚生労働省により設立された基金を利用することもできるようになりました。この基金は電子カルテの普及を目的としており、300億円の補助を受けることが可能です。しかし、全国の病院が対象となっているため、今後の不足も予想されます。検討しているのであれば、早めの申請が望ましいでしょう。
また、基金という形式にはなっていますが、実際のところ補助金に近い給付が予想されています。したがって、全額の補助というよりも一部の負担を念頭に入れた方が安心です。基金の交付要綱はまだ出ていないため、もし活用する場合は事前に準備しておきましょう。
事前の準備方法として、自院が採用しているシステムの現状を把握しておきましょう。特に契約形態は、経営者から見えにくい部分もありますので、あらかじめ確認しておくポイントです。また、改修にはコストだけでなく人的負担もかかりますので、事前に院内で話し合っておくとスムーズでしょう。
3.あなたの努力が明日の医療を支える!
病院全体の協力を得るためには、事務部門の役割がとても重要です。そのため個人のレベルアップは不可欠です。事務のレベルアップに必要なポイントとして、知識や知恵を付けることが大切です。加えてマインド面も育てるようにしましょう。なぜなら知識を生かすには知恵が必要となり、マインドが不足していると知識を得ようとしないからです。
事務の仕事も、ベストバリューにこだわるのであれば、より良い成果を出し続ける必要があります。契約担当者の方がベストバリューを獲得したいのであれば、経営陣の一翼として改めて意識することが大切です。皆さんの努力によって少しずつ改善することで、医療業界も変わっていきます。まずは既存で行うルーチンワークの効率化や省力化から始めてみましょう。
【講師プロフィール】
斎藤 知二(さいとう・ともじ)氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 事務局 総務部 総務課 調達企画室長
1991 年に国立病院医療センター(現国立国際医療研究センター)に就職。その後、▽国立横浜病院(現NHO 横浜医療センター)
▽国立療養所東京病院(現NHO 東京病院)▽NHO 災害医療センター▽国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター
中央病院)▽NHO 栃木病院(現NHO 栃木医療センター)▽NHO 久里浜医療センターを経て、18 年4 月から現職。従事した
業務は、医事・契約・経理・給与・監査・財務・経営など多岐にわたる。
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