2025年09月12日
カテゴリ:財務会計

2024年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)より公表された「新リース会計基準」は、2027年4月1日以降に適用され、リース取引の会計処理が大きく変わることになります。
この改正は、多くの企業の財務諸表や業務フローに大きな影響を与える可能性があり、特に経理担当者や財務担当者、経営者の方々は、その具体的な内容、自社への影響、そして適切な対応策を理解しておくことが重要です。
本記事では、新リース会計基準の概要から、改正の背景、主な変更点、会計処理の具体例、そして企業が取るべき対応戦略までを詳しく解説し、スムーズな移行をサポートします。
INDEX
日本のリース会計基準の歴史と改正の背景
リース会計基準とは、企業が行うリース取引の会計処理について定められたルールであり、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)が取り決めています。
リース取引とは、コピー機やパソコン、不動産といった資産を、所有者から一定のリース期間にわたり料金を支払って借りる契約のことを指します。
この基準は主に金融商品取引法の適用を受ける上場企業などに適用が義務付けられています。
そのため、上場していない中小企業などの場合は、必ずしもこの基準の適用が必須となるわけではありません。
新リース会計基準の公表と適用時期
日本のリース会計基準は、国際的な会計基準との整合性を図り、国内外の企業の比較をしやすくするという背景と、企業の財務状況をより正確に反映するという目的、そして投資家への透明性を向上させるという目標から、大きな変更を伴う改正が進められました。
国際会計基準との整合性
かつて日本のリース会計基準は国際的な会計基準と類似していましたが、2016年に国際会計基準審議会(IASB)が「IFRS16号(リース)」を公表したことで状況が変わりました。
IFRS16号では、原則としてすべてのリース取引を資産として計上することを求めており、これに伴い日本基準との間で差異が生じました。
この差異は、日本企業の財務情報が国際的に比較しづらくなる原因となり、海外投資家が投資判断をする上で影響を与える可能性があったため、今回の改正では、IFRS16号と整合性を図り、連結財務諸表における比較可能性を高めることが目的の一つとされています。
企業の財務状況の正確な反映
従来のリース会計基準では、リース取引がファイナンスリースとオペレーティングリースに分類され、オペレーティングリースは貸借対照表に計上されないオフバランス処理が認められていました。
これにより、企業が保有する負債や資産の実態が財務諸表上では見えにくく、企業の経営リスクを正確に把握することが難しいという課題がありました。
しかし、新基準では原則としてすべてのリース取引が貸借対照表に計上されるため、企業の財産や負債の状況がより正確に反映され、財務状況の透明性が高まります。
投資家への透明性の向上
新リース会計基準の導入は、企業の財務情報の透明性を高め、投資家にとって分かりやすい情報開示を促すことを目指しています。
新基準では、すべてのリースがオンバランス処理されることで、企業の総資産や総負債がより明確に把握できるようになります。
これにより、投資家は企業の財務状況やキャッシュフローの実態をより正確に分析し、適切な投資判断を下すことができるでしょう。
新旧リース会計基準の主な変更点
新リース会計基準の要件では、リース取引の会計処理に関して大きな変更点が示されています。
これらの変更点を理解し、適切な対応を行うことが企業にとって重要となります。
リース取引の区分廃止とオンバランス処理の原則化
新リース会計基準の最も大きな変更点として、従来のリース取引の区分である「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の分類が原則として廃止され、すべてのリース取引についてオンバランス処理が義務付けられる点が挙げられます。
これまでは、オペレーティングリースは貸借対照表に計上されないオフバランス処理が可能でしたが、新基準ではオフィスビルの賃貸借契約や航空機のリースといった、これまで費用処理されていたものも、原則として使用権資産とリース負債として貸借対照表に計上されます。
ただし、重要性が乏しい少額リース(概ね300万円以下)や短期リース(リース期間が1年以内)については、例外的にオンバランス処理が不要となる簡便的な取り扱いが認められています。
リースの定義と識別方法
新リース会計基準では、リースの定義が「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と明確化されました。
これにより、契約書に「リース」と記載されていなくても、特定の資産を対価と引き換えに一定期間利用できる権利を与える契約は、オンバランス処理を求められる可能性があります。
リースの識別方法については、「特定された資産」が存在し、かつ顧客がその資産の使用から生じる経済的利益のほとんど全てを享受し、かつ使用を指図する権利の両方を有している場合に、その契約がリースを含むと判定されます。
この定義と識別方法の見直しにより、従来のオペレーティングリースに該当しなかったサービス契約や業務委託契約の一部も、リースとして識別される可能性が出てくるため、企業は自社の契約を改めて判定し、対応を進める必要があります。
使用権資産とリース負債の認識・測定方法
新リース会計基準では、原則としてすべてのリース取引において、借手は「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に認識・測定することが求められます。
使用権資産は、支払リース料総額の現在価値に、当初の直接費用などの付随費用を加算して計上され、リース負債は支払リース料総額の現在価値を算定して計上します。
現在価値の算定には、リース開始日における借手の追加借入利率を割引率として使用します。
具体的な例としては、不動産や建物、車などの賃貸借契約やレンタル契約が挙げられます。
例えば、不動産賃貸契約の場合、これまでは賃借料として費用計上していたものが、新基準では使用権資産として計上し、リース負債を認識する形に変わります。
使用権資産の償却は、原則としてリース期間にわたって定額法等で行われ、リース負債は利息法で処理されます。
リース契約期間に延長オプションや再リース契約が含まれる場合、それらも考慮してリース期間を決定し、リース料の現在価値を算定する必要があります。
変動リース料やフリーレント期間についても、新基準に沿った会計処理が必要です。
これにより、従来のリース資産だけでなく、実質的に利用権を持つあらゆる資産が財務諸表に反映されることになります。
財務報告における表示と開示の拡充
新リース会計基準の適用により、財務報告における表示と開示の項目が拡充されます。
特に、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、および注記において、リース取引に関する詳細な情報開示が求められるようになります。
借手における注記
借手は、貸借対照表に認識された使用権資産とリース負債の内訳や、それらの金額に影響を与える重要な仮定(例えば割引率など)について詳細な注記を行う必要があります。
また、損益計算書における減価償却費と支払利息の内訳、そしてキャッシュフロー計算書におけるリース料の支払額に関する情報も、開示が求められます。
さらに、短期リースや少額リースなどの適用免除を利用した場合のその旨と、免除されたリース料の総額なども注記する必要があります。
これにより、投資家やその他の利用者が企業のリース取引の実態をより正確に把握し、企業の財務状況を多角的に評価することが可能となります。
貸手における注記
貸手の場合も、リース取引から生じる債権や収益の内訳、リース資産の種類ごとの詳細な情報、そして重要な仮定などについて注記が求められます。
特に、ファイナンスリースとオペレーティングリースの区分は、貸手においては引き続き重要であり、それぞれの種類に応じた開示が求められます。
貸手は収益認識会計基準との整合性も考慮し、リース取引から生じるキャッシュフローや関連するリスクについて、より詳細な情報を提供することが求められます。
これにより、貸手のリース事業の実態と収益性をより透明性の高い形で示すことができます。
新リース会計基準による影響
新リース会計基準の適用は、多くの企業に広範な影響を及ぼします。
特に、従来のオペレーティングリース取引がオンバランス化されることにより、経理処理の負担増加、自己資本比率の変動、そして税法対応の必要性が生じます。
この基準は主に金融商品取引法の適用を受ける上場企業や会計監査人の設置が義務付けられている会社法上の大会社が対象であり、中小企業については原則として任意適用となります。
企業は自社の状況を正確に把握し、新基準適用による影響額を分析する必要があります。
経理処理負担の増加
新リース会計基準が適用されると、リース契約の会計処理が大幅に複雑化し、経理部門の負担が増加する影響が考えられます。
これまでオフバランス処理されていたオペレーティングリース契約も、原則として使用権資産とリース負債として貸借対照表に計上されることになります。
これに伴い、リース開始時には使用権資産とリース負債を認識する新たな仕訳が必要となり、その後も月々のリース料支払い時には、負債の元本部分と利息部分を区分して計上し、使用権資産の減価償却費も別途計上する必要があります。
さらに、リース契約の管理や情報の収集、計算プロセスなども見直す必要があり、既存の会計システムや業務フローの改修が不可欠となる可能性もあります。
自己資本比率への影響
新リース会計基準の適用により、企業の貸借対照表に「使用権資産」と「リース負債」が新たに計上されることで、財務指標に大きな影響が出ます。
特に、負債が増加する一方で純資産が増加しないため、自己資本比率が低下する可能性が高まります。
これは、負債総額が増加することで、相対的に自己資本の比率が低く見えるためです。
また、ROA(総資産利益率)も、総資産が増加する一方で利益への影響が限定的であるため、低下する傾向にあります。
これらの指標の低下は、企業の信用力評価や資金調達、M&A戦略などに影響を与える可能性があり、金融機関との関係性にも影響を及ぼすことが考えられます。
企業は、新基準適用後の財務指標を事前にシミュレーションし、その影響を最小限に抑えるための対策を検討する必要があります。
税法対応の必要性
新リース会計基準の適用は、企業会計上の変更であり、法人税などの税法に直接的な影響を及ぼすものではありません。
しかし、会計処理の変更が税務上の取り扱いに影響を与える可能性があるため、企業は税法との整合性を慎重に確認する必要があります。
例えば、従来オペレーティングリースとして処理されていた取引が会計上オンバランスされることにより、税務上の損金算入時期や減価償却の考え方、消費税の課税時期などに差異が生じる可能性があります。
また、新たに計上される使用権資産の減価償却費やリース負債に係る支払利息が、税務上どのように扱われるかを確認し、必要に応じて税務調整を行う必要があります。
企業は、新リース会計基準の適用に際し、税務専門家と連携し、税務上の影響を正確に把握し、適切な税務処理を行うための準備を進めることが不可欠です。
具体的な会計処理の方法
新リース会計基準が適用されると、リース取引の会計処理は大きく変更されるため、経理担当者は新たな仕訳や計算方法を理解し、適用する必要があります。
リース開始時
リース取引の開始時、借手は「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上します。
使用権資産の金額は、リース負債の当初認識額に、借手が負担する当初の直接費用(仲介手数料など)やリース開始前に支払ったリース料(フリーレント期間を除く)など、リースに直接関連する付随費用を加えた金額で測定されます。
リース負債は、支払リース料総額の現在価値を算定して計上します。
この際、割引率にはリース開始日における借手の追加借入利率等を参考に決定します。
つまりある設備をリース契約した場合、その設備の使用権という「資産」と、将来のリース料を支払う義務である「負債」を同時に認識する仕訳を行うことになります。
月々のリース料支払い時の計上
月々のリース料支払い時には、従来の賃借料として一括して費用計上するのではなく、リース負債の返済部分と利息費用に分けて計上する必要があります。
リース負債は、原則として利息法により会計処理され、リース料の支払いによりその金額が減少します。
利息費用は、期首のリース負債残高に割引率を乗じて計算され、損益計算書の営業外費用に計上されます。
これにより、リース期間を通じて、リース負債の元本部分と利息部分が明確に区分され、財務諸表上での表示もより詳細になります。
使用権資産の償却
リース取引開始時に計上された使用権資産は、固定資産と同様に償却が行われます。
使用権資産の償却方法は、リースが所有権移転リースに該当するかどうかで異なります。
もしリースが原資産の所有権が借手に移転すると認められる所有権移転リースである場合、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法(定額法、定率法など)と同一の方法により償却します。
一方、それ以外のリースの場合(従来の所有権移転外ファイナンスリースやオペレーティングリースに該当するもの)、使用権資産はリース期間にわたって定額法などで償却されます。
償却費は損益計算書に減価償却費として計上されることになります。
これにより、使用権資産の価値の減少が財務諸表に適切に反映されることとなります。
新リース会計基準適用への対応戦略
新リース会計基準の適用に向けては、経理部門だけでなく、経営層を含む全社的な対応が求められます。
特に、リース契約の洗い出しからシステム改修、社内規程の整備まで、多岐にわたる準備が必要です。
リース契約の洗い出しと影響分析
新リース会計基準への対応の第一歩は、自社が締結しているすべてのリース契約を網羅的に洗い出すことです。
これには、名称が「リース契約」でなくても、実質的にリースの定義に該当する契約(例えば、特定の資産を使用する権利を一定期間対価と交換に移転する契約)も含まれます。
契約書の確認を通じて、各リース契約の期間やリース料、延長オプション、再リース契約の有無などの詳細情報を収集します。
次に、これらの契約が新基準によってどのように会計処理されるかを個別に評価し、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)といった財務諸表に与える影響額を試算します。
特に、自己資本比率やROAといった重要な経営指標への影響も分析し、今後の経営戦略に与える影響を把握することが重要です。
この影響分析の結果は、今後の対応方針やスケジュールの策定において不可欠な情報となります。
適用スケジュールの策定
新リース会計基準は、原則として2027年4月1日以降に開始する事業年度から強制適用となりますが、2025年4月1日以降に開始する事業年度から早期適用することも可能です。
企業は、自社の状況とリソースを考慮し、いつから新基準を適用するかを決定し、具体的な適用スケジュールを策定する必要があります。
強制適用までの期間を利用して、段階的に準備を進めるのか、早期適用によってガバナンスの迅速な対応を社内外にアピールする機会を得るのかなど、経営戦略的な視点も踏まえて検討すべきです。
スケジュール策定においては、リース契約の洗い出し・分析、会計システム改修、社内規程整備、従業員教育などの各タスクに要する時間を正確に見積もり、余裕を持った計画を立てることが成功の鍵となります。
社内規程やマニュアルの整備
新リース会計基準の適用に伴い、リース取引に関する社内規程や業務マニュアルを全面的に見直し、整備する必要があります。
これには、リースの定義の変更、オンバランス処理の原則化、使用権資産とリース負債の認識・測定方法、償却方法、注記項目の追加など、新基準で要求される会計処理の具体的な方法を明記することが含まれます。
また、リース契約の新規締結から会計処理、開示に至るまでの業務フローも再構築し、関係部署間の連携体制を確立する必要があるでしょう。
さらに、経理担当者だけでなく、リース契約に携わる営業部門や法務部門など、関連する全ての従業員に対して、新基準の概要と自社への影響、そして新たな業務フローや会計処理に関する詳細な説明会や研修を実施し、周知徹底を図ることが重要です。
これにより、新基準へのスムーズな移行と、正確な会計処理の実施が可能となります。
会計システムの更新と業務フローの見直し
新リース会計基準の適用には、既存の会計システムの大幅な更新が不可欠です。
従来のシステムでは、オペレーティングリースのオフバランス処理を前提としていたため、使用権資産とリース負債を認識し、その後の償却や利息計上を行う機能が不足している可能性があります。
例えば、固定資産管理システムや、リース契約管理に特化したクラウドサービスなどを導入・活用することで、リース契約の自動識別や、正確な使用権資産とリース負債の計算、仕訳生成を効率的に行うことが可能になります。
また、システム更新と合わせて、リース契約の起案から承認、会計処理、そして財務報告に至るまでの一連の業務フロー全体を見直す必要があります。
具体的には、リース契約情報の入力・管理方法、割引率の適用、償却計算、そしてこれらのデータが財務諸表にどのように反映されるかなど、業務プロセスを再構築し、効率的かつ正確な運用体制を確立することが重要です。
適用時期と経過措置
新リース会計基準は、企業会計基準委員会(ASBJ)が2024年9月13日に公表した「企業会計基準第34号『リースに関する会計基準』」として、適用時期と経過措置が明確に定められています。
適用開始時期
新リース会計基準は、原則として2027年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用されます。
例えば、3月決算の企業の場合、2027年3月期までは現行のリース会計基準が適用され、2027年4月1日に始まる事業年度(つまり2028年3月期)から新リース会計基準が適用されることになります。
ただし、対象企業には、2025年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することも認められています。
この場合、期中や期末からの適用は認められず、必ず期首からの適用となるため、注意が必要です。
新基準の適用開始までには、企業は十分な準備期間を確保し、計画的に移行を進めることが求められます。
経過措置について
新リース会計基準の適用初年度においては、原則として新たな会計方針を過去の期間すべてに遡及適用することが求められますが、実務上の負担を軽減するための経過措置も設けられています。
主な経過措置として、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することが認められています。
この経過措置を適用する場合、借手は適用初年度の比較情報について、貸借対照表及び損益計算書において新たな表示方法に従い、組替えを行わないことが可能です。
また、借手は適用初年度においては、借手の注記事項についても比較情報に記載せず、従来のリース会計基準に定める事項を記載することも認められています。
さらに、現行のリース会計基準でオペレーティングリース取引としてオフバランスされていたリースについては、リース識別を適用初年度の事実・状況で判断できるといった特例も設けられています。
これらの経過措置を適切に活用することで、企業は新基準へのスムーズな移行を図ることができます。
まとめ
新リース会計基準は、国際的な会計基準との整合性、企業の財務状況の正確な反映、そして投資家への透明性向上を目的として、2027年4月1日以降の事業年度から原則強制適用されるものです。
従来のリース取引の区分が廃止され、短期リースや少額リースを除き、すべてのリース契約がオンバランス処理される点が大きな変更点です。
この改正により、使用権資産とリース負債が新たに計上されることで、企業の自己資本比率やROAといった財務指標に影響を与える可能性があります。
また、会計システムの更新や業務フローの見直し、社内規程の整備、そして経理担当者の教育など、企業全体で多岐にわたる準備が求められます。
適用開始時期と経過措置を理解し、計画的に対応を進めることで、新基準へのスムーズな移行が可能になります。
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