2023年02月28日
カテゴリ:デジタルトランスフォーメーション
新型コロナウイルス感染症対策を契機に、日本企業全体のデジタル化が加速しています。ニューノーマル時代の中で大企業・中小企業共に生き残りを図るには、デジタルを業務効率化のためだけの手段とするのではなく、新たな価値を創出して競争上の優位性を確立させるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することが必要です。
ヘルスケア業、製造業、教育業など、幅広い業種で導入されているDX。そこで本記事では、日本・海外企業のDX成功事例を紹介すると共に、DXを戦略的に成功させる具体例やポイントをご紹介します。
INDEX
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提唱された、「デジタル技術の浸透が人々の生活を良い方向に変えていく」という概念です。
経済産業省では、DXを「企業が顧客や市場の変化に対応するために、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して価値を創出し、競争上の優位性を確立することである」と定義しています。
※参照元:経済産業省「DXレポート」
つまり、最新テクノロジーをフルに活用してビジネスモデルに変革をもたらすべきということです。
DXの推進は、業務プロセスや組織風土など、様々なビジネス文化の変革をもたらします。企業がDXを成功させる第一歩は、新たな価値創造を目的とするデジタル経営に取り組むことだと言えるでしょう。
企業でDX戦略が必要となる理由を解説
DXの推進で新たなサービスを提供する企業が現れる一方、競合するビジネスモデルの登場で既存のビジネスが破壊される企業(デジタル・ディスラプション)も散見されています。
経済産業省は、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定など、経営者がとるべき対応を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめ、持続的な企業価値の向上を図るポイントとして次の3点が重要であるとしています。
- ITシステムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描いていくこと。
- ビジネスの持続性確保のため、IT システムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていくこと。
- 必要な変革を行うため、IT部門、DX部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組むこと。
DX戦略は、データとデジタル技術を活用して、従来のビジネスモデルや企業文化を変革する経営戦略を指しています。「DX戦略=企業の成長戦略」であり、現代企業がビジネス環境の激しい変化に対応して成長するには欠かせないものです。
なお、未だにレガシーシステム(老朽化している旧システム)がDX推進の足かせとなっている企業や、ビジネスモデルの変革に取り組むものの、変革の入り口で足踏みしている企業も多いことが指摘されています。早急に本来あるべき姿へ既存システムを刷新することが、DX戦略の遅れている企業の最重要課題であるといっても過言ではないでしょう。
※参照元:経済産業省「デジタルガバナンス・コード」
日本企業のDX成功事例 6選
経済産業省は、東証(東京証券取引所)と共同で「DX銘柄」を選定しています。DX銘柄とは、企業価値の向上につながるDX推進の仕組みを構築して優れたデジタル活用を進めている企業で、業種ごとに選定されDXの成功事例として紹介されています。
「DX銘柄2022」の中からデジタル時代を先導する「DXグランプリ2022」 に選定されたのは、中外製薬株式会社様と日本瓦斯株式会社様の2社です。それぞれの選定内容と審査員のコメントをご紹介しましょう。
中外製薬株式会社様(医薬品) (2022年DXグランプリ)
中外製薬株式会社様は、抗体エンジニアリング技術の進展をはじめ、独自の創薬技術による革新的な医薬品の開発に注力しています。
成長戦略「TOP I 2030」を策定。DXの推進に当たっては「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」
を掲げ、(1)デジタルを活用した革新的な新薬の創出、(2)すべてのバリューチェーンの効率化、(3)デジタル基盤の強化 を基本戦略としています。
サイエンス力・技術力・デジタル技術を掛け合わせた戦略、ビジョンが評価されました。
以下に、グランプリ受賞時の審査員コメントをご紹介いたします。
●新成長戦略「TOP I 2030」とデジタルに関わる方針「CHUGAI DIGITAL VISION2030」が噛み合っている。創薬、生産、医療関係者・患者を網羅した取組がなされている。
●ビジョン、戦略と人材育成等の関係性が明確であり、デジタルの本質を理解した上での全社的な取組が行われている。
●DXの王道を歩んでいる。人材獲得や育成も、一段他社と比べて取組が科学されている点が面白い。
●トップのコミットメント、CDOやデジタル専門組織の設置、デジタルリテラシー底上げの取組、スタートアップとの協業会社などの体制に加え、トライ&エラーやアジャイル文化の明確化など、抜けがない。
※引用元:経済産業省「デジタルトランスフォーメーション銘柄 (DX銘柄)2022」
日本瓦斯株式会社様(小売業) (2022年DXグランプリ)
日本瓦斯株式会社様は、LPガス・都市ガスの顧客基盤拡大を基礎としながら、ファミリー層を中心とした既存のガス顧客に向けた電気のセット販売に注力しています。
デジタルを軸にエネルギーの最適利用の仕組みをトータルで提供するエネルギーソリューションへとビジネスモデルを進化させるため、オペレーションを他社に広く提供することを計画しています。
計画実現に向けて「NICIGAS 3.0」を掲げ、従来のインフラや規制に代わりオープンな共創連携基盤の構築を進めるといった戦略などが評価されました。
以下に、グランプリ受賞時の審査員コメントをご紹介いたします。
●既存深化、新規変革の各事例ともに、同社の包括的なDXの取組の着実な進展が見られ、事業リスク・ 課題への対策としても具体的かつ合理的である。KPIも明快でKGIへの帰着ストーリーも腹落ちする。
●発送電分離や導管分離など、インフラ領域が大きく変わる中で、プラットフォーマーに転身しようという絵を描いており、単なる絵に止まらず、IoTやマイクロサービスによるアプリケーション開発、ブロックチェーン等のテクノロジー活用という観点で突出している。
●経営戦略上のDXの位置づけも明確で説得力がある。同社は銘柄応募企業の常連であるが、毎年確実な進化が見られる点が素晴らしい。実現能力も十分。
※引用元:経済産業省「デジタルトランスフォーメーション銘柄 (DX銘柄)2022」
上述以外に、DXを成功させている日本企業の成功事例を4つ紹介していきます。
日清食品株式会社様
カップヌードルやチキンラーメンでおなじみの日清食品株式会社様は、デジタル変革に挑戦してきました。
「次世代型スマートファクトリー」の取り組みでは、関西工場における徹底した省人化 / 自動化による生産性の向上を目指してきました。「NASA室」と呼ばれる自動監視管理室で全製造工程をモニタリングすることにより、不良品が発生しないよう徹底した対策が取られています。 「レガシーシステム終了プロジェクト」では、多数のシステムが複雑に絡み合い、運用保守の費用も増大していた業務システムを8割超削減させました。
同社のDXへの取り組みの指針は「NBX(Nisshin Business Transformation)」と呼ばれており、大きく以下の2軸で構成されています。
➀ビジネスモデルの変革
タレントマネジメントシステム高度化、360°消費者理解、データドリブンなソリューション提案、サプライチェーンの清流化
➁効率化による労働生産性の向上
デジタルツールの活用、ペーパーレス・ハンコレス、スマートファクトリー
NBXは単なるデジタル化にとどまらないビジネスモデル自体の変革を目指しています。
今後は、各システムの共通データを自動かつリアルタイムで連携させ、BIツール等による数値化・分析を可能に。属人化していた生産工程や営業活動をデータに基づいて進めていくといいます。
株式会社小松製作所様
株式会社小松製作所様は建設・鉱山・産業機械メーカーであり、世界第2位のシェアを誇る総合機械メーカーです。同社では「デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション」を世界の建設・鉱山現場に展開しようとしています。
・スマートコントラクション事業
同社では2015年~2019年まで「スマートコンストラクション」を推進。施工の各工程を部分的にデジタル化し、「縦のデジタル化」を実現したソリューションです。
2020年、IoTデバイスであるICT建機や最新のアプリケーションを使った「DXスマートコンストラクション」を展開。施工の全工程をデジタルでつなぐもので、実際の現場とデジタルの現場(デジタルツイン)を同期させながら施工をしていくことが可能になりました。(「横のデジタル化」)。
「DXスマートコントラクション」の実現により、安全で効率的な施工が可能となり、国内にとどまらず、米国、英国、ドイツ、フランス、デンマークでも導入が進められています。
・全体最適の経営の実現
中期経営計画において、「ダントツバリュー」というスローガンを掲げています。製品の高度化「ダントツ商品」、稼働の高度化「ダントツサービス」、施工の高度化「ダントツソリューション」を実現することで、ESG課題(環境・社会・企業統治に関する課題)の解決と収益向上を目指しています。
「ダントツバリュー」を追求し、全体最適の経営を実現している点が評価され「DX銘柄2020」にも選定されています。
株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングス様は「製造物流IT小売業」というビジネスモデルを掲げ、商品開発から製造、配送、販売に至るまでの全工程を自社内で完結させています。
同社は小売だけでなく、最新のシステムに支えられながら物流のプラットフォームに移り変わっています。
同社傘下の物流会社「ホームロジスティクス」がこの変革を主導しており、下記2つのDX施策を。
➀ブロックチェーンを使い物流に関わるあらゆる情報を電子化
・書類の撤廃:紙の伝票や注文書の紛失や記載ミスの課題解決
・社外との連携:ドライバーのスキルや実績の把握による最適な人員配置
・積載率の向上:他企業の荷物も配送することで積載率向上
➁配送ルート最適化サービス「Loogia(ルージア)」を導入し効率的な配送システムの構築
こういった最先端の技術を取り入れた物流構築とデジタル化のサポートにより、外部受託事業の売上を2030年までに数百億円規模に伸ばすことを目標にしております。
グループ内のコスト削減を目的とするだけでなく、現在はITシステムの開発や作業の機械化、他社の物流や新規事業に参画を進めており、より一層の発展を期待できます。
ヤマハ発動機株式会社
2020年、ヤマハ発動機株式会社様はコネクテッド二輪車(N-MAX)と専用アプリ(YAMAHA MOTORCYCLE CONNECT)をインドネシア市場に導入、「顧客とつながる」モバイルアプリ(My Yamaha Motor)もグローバル展開を進めています。
2つのアプリを組み合わせオイル交換時期の提示、メーター表示機能の拡張などが可能となり、より快適なユーザー体験を実現しています。
アプリを搭載したモーターサイクルから収集した走行データなどの活用により、ユーザー個人に最適化したツーリングプランの提案などを目指しています。
同社は「DX銘柄2021」にも選定され、コネクテッド技術を用いた二輪車への付加価値だけでなく、最新技術を活用し事業と掛け合わせたDX実現能力などを評価されています。
同社の掲げた、2030年までにすべての製品をつなげるデジタル戦略「コネクテッドビジョン2030」に向け、DXをさらに加速させていくでしょう。
海外のDX成功事例 3選
日本でもサービスを展開している海外企業の事例を3つ紹介します。
どの企業もDXで世界に大きく影響を与えている企業であるため、DXを推進する上で参考となるでしょう。
Netflix, Inc.
現在多くの人が利用しているストリーミングサービス。その代表格と言えば、NetflixとAmazonプライムの2つを考える方が多いのではないでしょうか。国内だけで言えば、Amazonプライムのシェア数が多い状態ですが、世界規模で見ると登録者2億2千万人のNetflixがシェア数1位を獲得しています。
同サービスは登録系のストリーミングサービスで、インターネットの繋がっている状態であれば、スマホでも豊富な映像作品を視聴することが出来ます。
ひと昔前までは、専門店でビデオ、DVDを借りるのが主流でしたが、Netflixを始めとするストリーミングサービスが登場したことで、自宅にいても好きな作品を見ることができるようになりました。
Netflixは、映像業界のビジネスモデルを大きく改革したサービスと言えるでしょう。
Uber Technologies, Inc.
コロナウイルスの影響で有名となったUber Eats。そのサービスを提供している企業がUber Technologies, Inc.です。
配達注文のイメージが先行してしまいがちですが、本来同社は自動車の配車サービスを主とする企業。
ユーザーはスマホのアプリを入れるだけで、配車の手続きはもちろんドライバーの情報や配車の時間まで知ることが可能です。
Uber Eatsと同様に、登録すれば誰でもドライバーとして従事することができるため、その手軽さから多くのユーザーが登録しました。
日本では特別な許可が必要なため、誰でも気軽に登録できる訳ではありませんが、自家用車で働くことができる国は多くあります。
ドライバーとサービス利用者が互いにアプリ内で評価できるシステムとなっているため、相手が個人ドライバーであっても安心して利用できるサービスです。
タクシーの用意や従業員の雇用が必要のないUber Technologies, Inc.は、配車サービスのビジネスモデル、ビジネスを変革した事例と言えるでしょう。
Spotify Technology S.A.
Spotify Technology S.A.は、スウェーデンに本社がある企業。数千万もの音楽を無料で聴けるストリーミングサービス「Spotify」を提供しています。自分の好みに合ったおすすめの曲が表示され、お気に入りの音楽で自分オリジナルのコレクションを作成することも可能です。
今まではCDやダウンロードで音楽を聴くことが主流だったため、テレビなどで得た情報を元に自力で探す必要がありました。しかしSpotifyが登場したことで、それまで知らなかった自分好みの曲に多く出会える機会が増えたのです。
また、膨大なユーザー・データを収集することで、プロモーション活動においても有益な情報を確保できるようにもなりました。
DX戦略を成功に導く最初に取り組むべき3つのポイント
DX戦略を成功に導く最初に取り組むべき3つのポイントを、DX銘柄の審査員コメントの中からチェックしてみましょう。
経営トップによるDX戦略の明確化
DX戦略を成功させるためには、経営トップの確固たるリーダーシップが求められます。企業文化や業務プロセスの変革には、部署の壁を超えて発想・協力する風土づくりが必要となります。経営トップは、全ての従業員にDX戦略を明確に説明することが必要です。
DXグランプリ2021に選定された2社は、経営ビジョンにおけるDX戦略の位置づけが明快であることが評価されています。
DX人材の育成
DX戦略を推進する組織には、アイデアを創出する「DXイノベーター」、テクノロジーでアイデアを具現化する「DXデベロッパー」、アイデアをビジネスにする「DXエグゼキューター」を配置することが有効です。
DX戦略を成功させるには、技術面だけではなく、データ分析から仮設・立案・検証ができる人材、経営改革を最新テクノロジーの活用で具現化できる人材の育成が必要です。
業務の標準化
DXによるビジネス変革を起こすには、データを活用できる状態にしなければいけません。
そのためには、業務の標準化が重要です。
誰もが一定の品質で業務を行えることが、データの正規化に繋がります。
そこで、レガシーシステムへの対応が重要です。
システムの複雑化やブラックボックス化を招き、DX戦略成功の障害となるため、早急に新たなシステムへ刷新することが必要です。
刷新時は、単純に現行業務をデジタル化(置換)するのではなく、既存の業務やルールを見直し、データを基軸とした経営判断を可能とすることが必要となります。刷新に有効なことは統合パッケージやクラウドの活用です。専用のサーバールームや保守要員が不要になると共に、ノンカスタマイズでの導入は業務の属人化リスクを解消し、将来的なブラックボックス化も防ぎます。
※参照元:経済産業省「デジタルトランスフォーメーション銘柄 (DX銘柄)2021」
DX戦略を成功させよう
DX戦略を成功させるためには、自社の取り組みと共に、最適なデジタライゼーションを提案できるベンダーとのパートナーシップも重要なポイントとなります。
WorkVisionは、経済産業省の定めるDX認定事業者です。この認定は、情報処理の促進に関する法律に基づき、デジタルガバナンス・コードの基本的事項に対応している企業に与えられるものです。
DX戦略の成功には、デジタライゼーションの実現とDX推進人材の育成が必須となります。WorkVisionは、企業のDX戦略を成功させるために、DXマインドを身につけるリモートスタディ、発想力・企画力を磨くクラスルーム、ケース演習でDX推進プロセスを体得するリモートワークショップなど、様々な学習手段をとおして、DXスキルを高めることのできる研修コースを提供しています。
また、DX戦略の前提となるデジタイゼーション分野においても、「標準化支援サービス」をはじめとする様々なデジタルソリューションを提供しています。
WorkVisionは、コンタクトセンターのオペレーションにAIを導入してお客様対応を高品質化するなど、DX戦略を自社実践しているベンダーです。DX戦略への取り組みにより体得したデジタルテクノロジーによる新たなビジネスモデルの提案など、共創の視点でDX戦略のサポートを行い、お客様のデジタル経営への変革に貢献してまいります。
※Lumadaは株式会社日立製作所の日本、およびその他の国における商標または登録商標です。
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