2025年12月03日
カテゴリ:総務
業務棚卸しは、組織内の業務を可視化し、非効率な点や課題を特定するための重要な手法です。
この記事では、業務の棚卸しの基本的な意味や目的から、具体的な進め方、成功させるためのコツまでを網羅的に解説します。
業務を棚卸しすることで、属人化の防止や生産性向上といった多くのメリットが期待できます。
業務改善の第一歩として、業務の棚卸しを効果的に進めるための知識を深めていきましょう。
INDEX
業務棚卸しとは?その目的と意味をわかりやすく解説
業務棚卸しとは、企業や部署内に存在する全ての業務を一つひとつリストアップし、その内容、手順、担当者、発生頻度、所要時間などを明らかにする活動を指します。
この活動の目的は、組織全体の業務の現状を正確に把握し、客観的なデータに基づいて課題を発見することにあります。
つまり業務の棚卸しとは、単に業務を可視化するだけでなく、その情報を分析して非効率なプロセスや重複作業、属人化している業務などを特定し、具体的な改善策へとつなげることを意味します。
「業務洗い出し」との具体的な違い
「業務棚卸し」と「業務洗い出し」は混同されがちですが、その目的と範囲に違いがあります。
業務洗い出しは、文字通り「どのような業務が存在するのか」をリストアップする作業を指すことが多く、業務の可視化が主な目的となります。
一方、業務棚卸しは、洗い出した業務リストをもとに、各業務の必要性や効率性、担当者の妥当性などを評価・分析し、改善策の立案までを含む、より広範で戦略的な活動です。
つまり、業務洗い出しは業務棚卸しという大きなプロセスの中の初期段階の一工程と位置づけられます。
洗い出しが「現状把握」であるのに対し、棚卸しは「現状把握+評価・改善」という目的意識の違いがあります。
なぜ今、業務棚卸しが重要視されるのか?3つの時代背景
現代のビジネス環境において、業務棚卸しの重要性はますます高まっています。
その背景には、働き方の多様化、全社的なDXの推進、そして生産性向上への強い要請という3つの大きな時代の変化が存在します。
終身雇用が前提ではなくなり転職が一般的になるなど、人材の流動性が高まる中で、組織として業務プロセスを標準化し、知識を共有する仕組みの構築は急務です。
これらの変化に対応し、企業が持続的に成長していくための基盤として、業務棚卸しの役割が注目されています。
多様化する働き方への対応が求められている
リモートワークやフレックスタイム制度、時短勤務といった多様な働き方が普及するにつれて、従業員が働く場所や時間はますます多様化しています。
こうした状況下では、従来のように上司が部下の業務を直接監督したり、口頭で指示を出したりする機会が減少します。
その結果、業務の進め方が個人の裁量に委ねられ、業務の属人化や品質のばらつきが生じやすくなります。
こうした状況に対し、業務棚卸しによって業務プロセスを可視化・標準化することで、誰もが同じ手順と品質で業務を遂行できる基盤が整います。
これにより、個人のスキルや経験に依存しない、公平で効率的な業務環境を構築することが可能です。
全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を経営の重要課題として掲げていますが、その推進には現状の業務プロセスを正確に把握することが不可欠です。
どの業務をデジタル化すれば最も効果的なのか、あるいはどのようなシステムやアプリを導入すべきかを判断するためには、業務棚卸しによる現状分析が前提となります。
もし、非効率な業務プロセスを理解しないまま新しいシステムを導入してしまうと、単に非効率なやり方をデジタルに置き換えるだけで、期待した効果は得られません。
業務棚卸しは、本当に価値のあるDXを実現するための土台作りであり、投資対効果を最大化するために欠かせない工程です。
生産性向上のための働き方改革
少子高齢化に伴う労働人口の減少や、働き方改革関連法の施行により、企業には生産性の向上が強く求められています。
限られた人材でこれまで以上の成果を上げるためには、長時間労働に頼るのではなく、業務の効率化を徹底しなくてはなりません。業務棚卸しは、そのための有効な手段です。
全ての業務を洗い出して分析することで、日常業務に潜む無駄な作業、部署間で発生している重複業務、全体の流れを滞らせるボトルネッ
クなどを客観的に特定できます。
これらの課題を解消することで、従業員一人ひとりの作業時間を短縮し、組織全体の生産性を向上させることが可能となります。
業務棚卸しで得られる3つの大きなメリット
業務棚卸しを適切に実施することは、組織に多くのメリットをもたらします。
業務プロセスを客観的に可視化・分析することにより、これまで見過ごされてきた課題が明らかになり、具体的な改善活動へとつなげることが可能です。
主なメリットとして、無駄な作業の発見による業務改善、属人化の防止によるリスク低減、そして限られたリソースの最適な再配分が挙げられます。
これらの効果は、組織の競争力強化に直接的に貢献します。
隠れた無駄な作業を発見し、業務改善につなげられる
日常的に行われている業務の中には、過去の慣習で続けられているだけで、本来は不要な作業や、複数の部署で重複して行われている作業が潜んでいることが少なくありません。
現場で作業している人たちも、この作業に課題があると気づいてない場合も多々あります。
業務棚卸しを通じて、全ての作業をリストアップし、その目的や必要性を一つひとつ見直すことで、このような隠れた無駄を発見できます。
例えば、誰も確認していない報告書の作成や、形骸化した承認プロセスなどが典型です。
これらの非効率な作業を特定し、廃止または簡略化したり、作業の順番を変えたり、2つの作業を一緒にしたりすることで、業務プロセス全体をスリム化し、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることができます。
業務の属人化を防ぎ、組織全体のリスクを低減する
特定の担当者しか業務の手順やノウハウを把握していない属人化の状態は、その担当者が急に休んだり、退職したりした場合に業務が停滞する大きなリスクを内包しています。
例えば、ベテラン営業担当者だけが知る顧客との交渉経緯や、経理担当者独自の複雑な会計処理などが例です。
業務棚卸しを行い、個人の頭の中にあった知識や手順をマニュアルやフローチャートとして明文化することで、業務の標準化が推進されます。
これにより、担当者が変わっても業務品質を維持でき、組織全体としての業務継続性を高めることが可能となります。
限られた人材やコストを最適に再配分できる
業務棚卸しによって、各業務にどれくらいの時間や工数がかかっているのかを定量的に把握できます。
このデータを用いることで、特定の部署や担当者に業務負荷が過度に集中していないか、あるいは、企業の戦略的な重要度が低い業務に多くのリソースが割かれていないかを客観的に評価することが可能になります。
分析結果に基づき、業務分担を見直して負荷を平準化したり、ノンコア業務をアウトソーシングしたりすることで、結果として限られた人材やコストといった経営資源を、より付加価値の高いコア業務へ戦略的に再配分することができます。
失敗しない!業務棚卸しの具体的な進め方6ステップ
業務棚卸しを効果的に進めるには、体系立てられた手順に沿って進めることが重要です。
ここで紹介する6つのステップは、目的設定から改善策の実行までの一連のプロセスを網羅しており、初めて取り組む場合でも実践できるやり方です。
この進め方を参考にすることで、抜け漏れなく、効率的に業務棚卸しを実施し、確実な成果へとつなげられます。
この方法は、あらゆる業種や規模の組織で応用可能です。
【ステップ1】実施する目的と対象範囲を明確に設定する
業務棚卸しを始めるにあたり、最も重要なのが「何のために行うのか」という目的を明確にすることです。
例えば、「部署全体の残業時間を20%削減する」「請求書発行業務を自動化する」といった具体的なゴールを設定します。目的が明確になることで、その後の作業の方向性が定まります。
次に、棚卸しの対象範囲を決定します。
全社的に行うのか、特定の部署に限定するのか、また、業務をどの程度の粒度(大分類、中分類、小分類など)で洗い出すのかを事前に定義しておくことで、関係者間の認識のズレを防ぎ、手戻りのないスムーズな進行が可能となります。
【ステップ2】業務一覧を管理するシートのフォーマットを準備する
洗い出した業務情報を効率的に収集・整理するために、統一されたフォーマット(テンプレート)を準備します。
このフォーマットには、最低限「大分類」「中分類」「小分類(具体的な業務名)」「業務の具体的な内容」「担当者」「発生頻度(毎日、週1回など)」「1回あたりの所要時間」「年間総時間」「使用しているシステムやツール」「課題・問題点」といった項目を含めると良いでしょう。
事前にフォーマットを整備しておくことで、各担当者から集める情報の粒度が揃い、後の集計や分析作業が格段に容易になります。
【ステップ3】担当者自身が担当している全ての業務を書き出す
準備したフォーマットに沿って、対象範囲の各担当者が自身の日々の業務を全て書き出します。
この段階では、業務の重要度や必要性を判断せず、まずは網羅的に洗い出すことに集中することが重要です。
毎日行う定型的な業務はもちろん、月に一度の報告書作成や年に一度の予算策定といった非定型業務、さらには突発的に発生するトラブル対応や他部署からの問い合わせ対応なども含め、思いつく限りの業務をリストアップしてもらいます。
この作業によって、これまで意識されていなかった「隠れ業務」が可視化され、より正確な業務一覧の作成が可能になります。
【ステップ4】書き出した業務を一覧表に整理してまとめる
各担当者から集めた業務リストを、部署単位などで一つの大きな一覧表に集約します。
この過程で、同じ業務であるにもかかわらず担当者によって業務名の表記が異なっている場合は統一し、内容が重複している業務は一つにまとめるといった整理作業を行います。
さらに、各業務を「コア業務/ノンコア業務」や「定型業務/非定型業務」といった分類軸で仕分けることで、後の分析がしやすくなります。
このステップで、部署やチーム全体の業務の構造が可視化され、全体像を俯瞰して把握できる表が完成します。
【ステップ5】担当者へのヒアリングで業務内容の解像度を上げる
作成した業務一覧表だけでは把握しきれない、業務の具体的な手順や背景、担当者が感じている課題などを深く理解するため、現場の担当者へ直接ヒアリングを行います。
この対話を通じて、「なぜその手順で作業しているのか」「どのような点に時間がかかっているのか」「改善できると感じる点はないか」といった、リストの文字情報だけでは見えてこない実態を明らかにします。
担当者本人にしか分からない暗黙知やノウハウ、潜在的な問題点を引き出すことで、業務内容の解像度を格段に高めることができます。
必要に応じて、外部のコンサルティング業者に依頼し、客観的な視点でヒアリングを進めることも有効です。
【ステップ6】分析結果をもとに具体的な改善策を実行する
整理・分析した情報をもとに、特定された課題に対する具体的な改善策を立案し、実行に移します。
改善策としては、「不要不急な業務の廃止(Stop)」「業務プロセスの見直しや統合(Change)」「業務の担当者や実施場所の変更(Change)」「RPAなどのツール導入による自動化(Create)」「業務の外注化(BPO)」などが考えられます。
全ての課題に一度に取り組むのは難しいため、効果の大きさや実行のしやすさなどを考慮して優先順位を決定し、実行計画を立てることが重要です。
実行後は効果を測定し、さらなる改善へとつなげるPDCAサイクルを回していきます。
業務棚卸しをよりスムーズに進めるための3つのコツ
業務棚卸しは、関係者の協力と適切な進行管理が不可欠なプロジェクトです。
その過程をより円滑に進め、実質的な成果につなげるためには、いくつかのコツを押さえておく必要があります。
関係者全員での目的意識の共有、業務フローの可視化、そして継続的な見直しの仕組み作りが、成功の鍵を握ります。
実施する目的を関係者全員で事前に共有しておく
業務棚卸しは、現場の担当者にとって通常業務に追加で発生する負担となるため、反発や非協力的な態度を招くことがあります。
これを防ぐためには、プロジェクトを開始する前に、なぜ業務棚卸しを行うのかという目的を関係者全員で共有することが不可欠です。
例えば、「この取り組みによって非効率な作業がなくなり、残業時間を削減できる」「単純作業から解放され、より創造的な仕事に時間を使えるようになる」など、担当者自身にとってもメリットがあることを具体的に伝えます。
目的への共感が得られることで、当事者意識が芽生え、より協力的かつ正確な情報提供が期待できます。
フローチャートなどを活用して業務の流れを図で可視化する
業務一覧表のようなテキストベースの情報だけでは、業務と業務のつながりや、全体のプロセスの流れを直感的に理解することは困難です。
そこで、業務フローチャートなどの図を用いて、業務の流れを視覚的に表現することが非常に有効な手段となります。
フローチャートを作成することで、一連の作業の開始から終了までの手順、条件による分岐、関係部署との連携ポイントなどが一目で把握できるようになります。
これにより、プロセス全体のどこに遅延の原因(ボトルネック)や手戻り、非効率な点が存在するのかを発見しやすくなり、具体的な改善策の検討に大いに役立ちます。
一度きりで終わらせず定期的に見直す仕組みを作る
業務棚卸しは、一度実施したら終わりという単発のプロジェクトではありません。
市場環境の変化、組織体制の変更、新しいテクノロジーの導入など、企業を取り巻く状況は常に変化しており、それに伴って業務内容やプロセスも陳腐化していきます。
そのため、例えば半期に一度や年に一度など、定期的に業務棚卸しを行い、現状を再評価するサイクルを業務プロセスに組み込むことが重要です。
継続的に見直しを行う仕組みを構築することで、常に業務の最適化を図り、組織全体の生産性を高いレベルで維持し続けることが可能となります。
棚卸し後に業務を改善するためのチェックリスト
業務棚卸しによって組織内の業務が可視化された後、次のステップはそれをどう改善につなげるかを検討していきます。
その際に、洗い出した膨大な業務リストを前に、どこから手をつけるべきか迷うことも少なくありません。
ここでは、各業務を評価し、具体的な改善アクションを判断するための基準となる3つのチェックポイントを提示します。
この視点を用いることで、論理的かつ効果的に業務改善を進めるための指針を得ることができます。
その業務は本当に必要なのかを判断する
洗い出した全ての業務に対して、最初に問うべきは「そもそも、この業務は本当に必要なのか?」という根本的な視点です。
その業務が組織の目標達成にどう貢献しているのか、もしその業務を廃止した場合にどのような具体的な不都合が生じるのかを冷静に検討します。
長年の慣習で続けられているだけで、現在ではその目的が形骸化している報告書作成や定例会議は少なくありません。
他の業務で目的が代替できる場合も含め、「やめる(Eliminate)」という判断が最もインパクトの大きい業務改善となります。
不要な業務をなくすことで、従業員はより価値の高い活動にリソースを集中させることができます。
業務の担当者が適切であるかを確認する
業務が必要であると判断された次に、その業務を「誰が担当するのが最適か」を検証します。
現在の担当者がその業務を遂行するための適切なスキルや権限を持っているか、また、その担当者の役職や給与レベルに見合った業務内容であるかを見直します。
例えば、高度な専門知識が不要な定型作業を、専門職や管理職が多くの時間を費やして行っている場合、それはリソースのミスマッチです。
業務の難易度や専門性に応じて担当者を変更したり、場合によってはパートタイムや派遣社員に任せたり、アウトソーシングを検討したりすることで、組織全体の人的リソースの最適配置を実現します。
作業時間と成果のバランスが見合っているか見直す
業務の必要性があり、担当者も適切であると判断された後、最後に「その業務の進め方は効率的か」を評価します。
その業務に投入している作業時間(工数)と、それによって生み出されている成果(品質、スピード、価値)のバランスが取れているかを確認します。
もし、多くの時間を費やしている割に成果が小さいのであれば、業務プロセスそのものに改善の余地があります。
手作業を自動化するツールの導入を検討したり、複数のステップに分かれている作業を統合したり、承認プロセスを簡略化したりするなど、より少ない労力で同等以上の成果を出すための方法を模索することが求められます。
まとめ
業務棚卸しは、組織内のあらゆる業務を可視化し、その現状を客観的に把握するための有効な手法です。
目的を明確に設定し、体系立てられたステップで進めることで、非効率な作業の発見、属人化の解消、そして限られた経営資源の最適配分といった多くのメリットを享受できます。
働き方の多様化やDX推進が加速する現代において、競争力を維持・強化していくためには、業務棚卸しを通じた継続的な業務プロセスの見直しが不可欠です。
この活動は、組織の生産性を根本から向上させるための土台を築くための重要な第一歩となります。
自社での実施が難しい場合は、外部のコンサルティングサービスを活用することも有効な手段となります。
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