2025年12月11日
カテゴリ:総務
心理的安全性は、生産性向上やイノベーション創出の鍵として、多くの企業で注目されています。
これは、メンバー一人ひとりが組織やチームの中で、本来の自分を安心してさらけ出せる状態を指します。
本質を理解し、その重要性を認識することは、現代の日本企業における経営課題の解決や、健康経営の推進に不可欠です。
本記事では、心理的安全性の定義から、組織にもたらすメリット、そして具体的な高め方まで、明日からの業務に活かせる知識を解説します。
INDEX
心理的安全性とは何か?基本的な定義を解説
心理的安全性とは、チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと信じられる状態を示す考え方です。
この定義の提唱者は、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授であり、彼女の研究論文で説明されました。
もともと組織行動学の研究で使われていた言葉ですが、Googleが「プロジェクト・アリストテレス」という研究で、成功するチームの最も重要な要素として発見したことから広く知られるようになりました。
本質をわかりやすく言えば、対人関係のリスクを恐れずに、誰でも安心して発言や行動ができる環境が心理的安全性です。
心理的安全性がビジネスで重要視される理由
心理的安全性がビジネスにおいて重要視される理由は、それが組織の成果に直接的な影響を与えるためです。
なぜ心理的安全性が高いと成果が出るのかというと、メンバーが失敗を恐れずに意見を述べたり、新しいアイデアを提案したりできるからです。
このような環境では、活発な議論からイノベーションが生まれやすくなります。
逆に、心理的安全性が低い組織では、メンバーは萎縮し、潜在的な問題点や改善案が共有されません。結果として、変化への対応が遅れ、組織の成長が停滞する要因となります。
パフォーマンスを最大化するために、心理的安全性が必要不可欠な土台であるという認識が広がっています。
心理的安全性と「ぬるま湯組織」の決定的な違い
心理的安全性は、単に仲が良く、仕事がゆるい「ぬるま湯組織」とは本質的に異なります。
両者の決定的な違いは、仕事に対する基準や規律、そして成果への責任感の有無にあります。
ぬるま湯組織では、メンバー間の関係性は良好かもしれませんが、お互いへの要求水準が低く、規律も緩いため、高い成果は期待できません。
一方で、心理的安全性の高い組織は、メンバーが安心して意見を言える土台の上で、仕事の基準や目標達成への要求水準も高く設定されています。
メンバーは互いに切磋琢磨し、建設的な意見を交わしながら、より高い成果を目指すことが可能です。
つまり、心理的安全性は、高い基準や責任との両立によって真価を発揮します。
心理的安全性がもたらす3つの組織的メリット
心理的安全性が確保された組織では、多くのメリットが期待できます。
メンバーは安心して自分の意見を表明し、積極的に行動できるため、チームワークが向上します。
これにより、個々の能力が最大限に発揮され、チーム力全体の底上げが実現します。
また、自分の貢献が受け入れられるという実感は、仕事へのやりがいやモチベーションを高める効果もあります。
心理的安全性のメリットは、組織のパフォーマンスを多角的に向上させる基盤の構築にあります。
チームの生産性が向上しやすくなる
心理的安全性が高いチームでは、メンバー間の情報共有が活発化し、業務上の連携がスムーズになります。
例えば、業務で不明な点があれば、誰にでも気軽に質問できるため、認識の齟齬による手戻りやミスが減少します。
また、自分の持つ知識やスキルを惜しみなく共有する文化が根付くことで、チーム全体の能力が底上げされるでしょう。
メンバー一人ひとりが安心して自分の能力を発揮し、互いに協力し合うことで、無駄な作業やコミュニケーションコストが削減され、結果としてチーム全体の生産性が向上します。
新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなる
心理的安全性が確保された環境では、メンバーは「こんなことを言ったら否定されるかもしれない」という対人関係のリスクを恐れることなく、自由な発想で意見を述べられます。斬新なアイデアや、既存のやり方に対する疑問も、率直に表明されるようになるでしょう。
こうした多様な意見の交換は、硬直化した思考を打破し、新しい視点や解決策を生み出す土壌となります。
特に、前例のない課題に取り組む際には、メンバーがリスクを恐れずに挑戦的な提案を行えるかどうかが、イノベーション創出の成否を分ける重要な要素です。
エンゲージメントが高まり離職率の低下につながる
心理的安全性の高い職場では、メンバーは自分らしく働くことができ、組織の一員としての貢献を実感しやすくなります。
これにより、仕事に対する熱意や貢献意欲、すなわち従業員エンゲージメントが高まります。
また、対人関係のストレスが軽減されることで、メンタルヘルスの不調を防ぐ効果も期待できます。
心身ともに健康な状態で働ける環境は、従業員の定着率を向上させ、優秀な人材の流出を防ぐことにつながります。
結果として、採用や育成にかかるコストの削減にもなり、組織の安定的な成長に寄与し、離職率の低下が期待できます。
心理的安全性が低い職場に潜む4つの行動不安
心理的安全性が低い職場では、メンバーは常に評価や人間関係を気にしてしまい、本来のパフォーマンスを発揮できません。
この状態は、エイミー・エドモンドソン教授によって4つの不安として分類されています。
これらのネガティブな要因は、個人の行動を制限し、組織全体の課題や問題点につながります。
自分のチームにこのような特徴がないか、4つの不安を理解し、現状を把握することが改善の第一歩です。
「何も知らない」と思われることへの恐れ
これは「無知だと思われたくない不安」とも呼ばれ、初歩的な質問や、知らない単語の意味を確認することをためらわせる心理状態を指します。
特に、専門性が高い会議や、多くの人が参加する場でこの不安は顕著に現れます。メンバーが疑問点を解消できないまま業務を進めると、後々大きな認識のズレや手戻りの原因となりかねません。
また、新しい知識の習得に対しても消極的になり、個人の成長機会を奪うだけでなく、チーム全体のスキルアップを阻害する要因となります。
「仕事ができない」と思われることへの恐れ
これは「無能だと思われたくない不安」とも表現され、自分のミスを認めたり、能力不足を理由に他者へ助けを求めたりすることを躊躇させる心理です。
この不安が強いと、メンバーはミスを隠そうとしたり、一人で問題を抱え込んだりしてしまいます。
その結果、問題の発見が遅れ、より深刻な事態に発展するリスクが高まるでしょう。
また、自分の弱点を率直に開示できないため、周囲からの適切なサポートやフィードバックを得る機会も失われ、個人の成長が停滞してしまいます。
「邪魔をしている」と思われることへの恐れ
「邪魔だと思われたくない不安」とも呼ばれ、相手の時間を奪うことを懸念して、発言や提案、相談を控えてしまう心理を指します。
会議の場で発言すれば議論が長引くかもしれない、あるいは、忙しそうな同僚に声をかけるのは申し訳ない、といった配慮が過剰に働き、積極的な関与を避ける行動につながります。
このような状態が続くと、チーム内のコミュニケーションは希薄になり、必要な連携が取れなくなります。
結果的に、チームの一体感が失われ、生産性の低下を招きます。
「批判的だ」と思われることへの恐れ
「ネガティブだと思われたくない不安」とも言われ、現状のプロセスや他者の意見に対して、問題提起や改善提案をすることをためらわせる心理状態です。
たとえ建設的な意図があったとしても、「空気を悪くする」「和を乱す」といった否定的な評価を受けることを恐れてしまいます。
その結果、現状維持が優先され、組織が抱える本質的な問題が見過ごされることになりかねません。
変化や改善の機会が失われ、組織の成長が停滞する大きな要因となります。
チームの心理的安全性を高めるための具体的な5つのアプローチ
チームの心理的安全性を高めるためには、具体的なアクションが必要です。
単に仲良くするだけでなく、マネージャーが中心となって、メンバーが安心して発言・行動できる仕組みや制度を整えることが求められます。
ここでは、心理的安全性を確保するために有効な5つの方法を紹介します。
これらの施策は、日々のマネジメントの中で意識的に進めることで、チームの文化として定着させることが可能です。
メンバーが気軽に発言できる雰囲気を作る
心理的安全性を高める第一歩は、役職や経験に関わらず、誰もが安心して発言できる雰囲気を作ることです。
例えば、ミーティングや打ち合わせでは、進行役が意図的に全員に意見を求める時間を設けたり、対話の機会を均等に与えたりすることが有効です。
特にオンラインでのコミュニケーションでは、意識的に相槌やリアクションを示し、発言者が孤立しないような配慮が求められます。
日頃から雑談を交えやすい場を設けるなど、業務以外のコミュニケーションを活性化させることも、オープンな雰囲気の醸成につながります。
お互いに意見を尊重し、建設的なフィードバックを促す
異なる意見や反対意見は、チームにとって新たな視点をもたらす貴重な資源です。
どのような意見もまずは一度受け止め、その背景にある意図や考えを尊重する姿勢を全員で共有することが重要です。
フィードバックを行う際は、人格を否定するような言い方ではなく、具体的な行動や事実に基づいた建設的な内容を心がけます。
1on1ミーティングなどを活用し、個々の考えや経験を語る相手との対話を取り入れることや、相手を尊重しつつ率直に自分の意見を伝えるコミュニケーション手法を学ぶことも有効な手段です。
挑戦と失敗を歓迎する文化を醸成する
新しい取り組みには失敗がつきものです。
心理的安全性の高いチームでは、挑戦した結果の失敗を個人の責任として追及するのではなく、チーム全体の学びの機会として捉えます。
失敗から得られた教訓を共有し、次の成功につなげるプロセスを重視する文化を醸成することが求められます。
リーダーが率先して「失敗しても大丈夫」というメッセージを発信し、挑戦そのものを評価する姿勢を示すことで、メンバーは萎縮することなく、積極的に新しい課題に取り組むようになります。
リーダーが率先して弱みを見せ、自己開示を行う
リーダーが常に完璧な姿を見せようとすると、メンバーは自分の弱みや悩みを打ち明けにくくなります。
そこで、リーダー自身が率先して自分の失敗談や苦手なことを自己開示することが効果的です。
リーダーの人間的な側面が見えることで、メンバーは親近感を抱き、安心して自分の弱みも見せられるようになります。
このようなリーダーの姿勢は、メンバー間の心理的な壁を取り払い、相互の信頼関係を深めるきっかけとなります。
結果として、チーム全体で助け合う文化が育まれます。
情報格差をなくし、オープンな情報共有を徹底する
組織の目標、プロジェクトの進捗、意思決定の背景といった重要な情報が一部のメンバーにしか共有されていない状況は、情報格差を生み、不信感や憶測を生む原因となります。
これを防ぐためには、知り得る情報は原則としてオープンに共有するという方針を徹底することが重要です。
情報へのアクセスが平等に確保されている状態は、メンバーに「自分もチームの重要な一員である」という認識をもたらし、安心感につながります。
透明性の高いコミュニケーションは、健全な組織運営の基盤です。
あなたのチームは大丈夫?心理的安全性を測る7つのチェックリスト
チームの心理的安全性のレベルを客観的に把握するために、提唱者であるエイミー・エドモンドソン教授が作成した7つの質問が広く用いられています。
これらの設問にメンバーが5段階評価などで回答することで、チームの状態を可視化し、具体的な課題を発見するサインとなります。
1.このチームでミスをすると責められることが多いと感じる。
2.このチームでは、問題や難しい課題を気軽に提起できる雰囲気がある。
3.このチームでは、他の人が自分と違うという理由で拒絶されることがある。
4.このチームでは、リスクを取ることが安全だと感じる。
5.このチームでは、他のメンバーに助けを求めるのは難しいと感じることがある。
6.このチームの中で、意図的に私の努力を妨げようとする人は誰もいない。
7.このチームでは、自分のユニークなスキルや才能がきちんと評価され、活かされていると感じる。
よくあてはまるほど点数が上がる評価方法のとき、心理的安全性が高い組織の場合、2・4・6・7の質問は点数が高くなり、1・3・5の質問は点数が低くなります。心理的安全性が低い組織の場合は、これらの点数の動きが逆になります。
定期的にこの測定を行い、チームで結果を確認することで、改善に向けた対話のきっかけにもなります。
あなたのチームがどのレベルにあるか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
心理的安全性の向上に役立つツールやサービス
心理的安全性を高める取り組みを自社だけで進めるのが難しい場合や、より客観的なデータに基づいて改善を進めたい場合には、外部のツールやサービスを活用するのも有効なソリューションです。
多くの企業が、組織の心理的安全性を測定するためのサーベイツールを提供しています。
これらのサービスを利用すると、チームや部署ごとのスコアを可視化し、他社比較や経年変化を分析したレポートを得ることが可能です。
データに基づいた的確な課題設定が可能となり、効果的な施策の立案を支援するシステムとして役立ちます。
まとめ
このコラムでは、心理的安全性の定義から、組織にもたらすメリット、そして具体的な高め方までを解説しました。
心理的安全性を高める目的は、単に居心地の良い職場を作ることではなく、メンバー一人ひとりが能力を最大限に発揮し、変化に対応しながら組織全体が持続的に成長していくための土台を築くことにあります。
紹介したアプローチやチェックリストを参考に、自組織の現状を把握し、対策の動きを取り入れることによって、より良いチーム作りへの一歩を踏み出すことが期待されます。
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