2023年07月27日
カテゴリ:医療
医療DXとは何か
DXの意味、意義
DX(Digital Transformation)とは、企業や組織がデータとデジタル技術を活用し、製品やサービス、ビジネスモデル、業務プロセスなどを変革することです。
これを医療機関にあてはると、医療機関で扱う様々な医療情報をデータ化し、システムやデジタルプラットフォームによる管理・共有を行うことにより、医療従事者・利用者双方にとって、より良い医療のあり方を目指していくことを意味します。
その際、システムを導入するだけではDXとして十分とは言えない点に留意する必要があります。データやシステムを活用して業務プロセスを改善し、医療機関が抱える課題の解決にまで到達することが、メディカルDXの目指すゴールとなってきます。
医療DXを取り巻く現状
医療従事者の長時間労働、少子高齢化、地域間の医療格差など、医療業界を取り巻く幾多の課題の解決手段として、DX推進の重要度はますます高まってきています。
しかしながら、医療業界のDXはなかなか進まないのが現状で、他業種と比較しても大きく後れをとっているのが現状です。
(参考資料:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」2023年3月発行版)
医療業界のデジタル化の遅れについては、新型コロナウイルスの流行を機に浮き彫りになりました。ニュース等でも取り上げられていたことを記憶されている方も多いかもしれません。
2020年4月に「時限的・特例的な対応」としてオンライン診療による初診が解禁されるなど、コロナ禍を経て、医療のデジタル化の動きは若干加速してきたとはいえそうですが、まだまだ十分ではなさそうです。
政府の動向(指針)と推進の流れ
政府は現在、「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、医療現場におけるDX推進、日本の医療分野における情報のあり方の抜本的な改革を目指しています。
(「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム)
内閣官房においては、医療分野のDXに関連する施策の進捗状況等の共有・検証等を目的とした。「医療DX推進本部」も開催されています。
(内閣官房:医療DX推進本部)
上記の「医療DX令和ビジョン2030」で推進される施策は、以下の工程表で示されている通り、段階的に進められています。
厚生労働省「医療DXの推進に関する工程表」
(医療DXの推進に関する工程表)
医療DX導入のメリットと施策例
医療DXを促進することにより、医療従事者の業務効率化や利用者の利便性向上、BCPの強化、地域間医療格差の是正など、様々なメリットがあると考えられています。
事務業務の効率化
医療機関でデジタル化が進むことによるメリットとして筆頭に挙げられるのが、現場で働く医療スタッフの業務負荷軽減です。
具体的な例として、診療報酬明細書作成や経理業務、在庫管理、労務管理などの事務業務は、システムやITツールの導入・普及によって自動化・効率化を図ることができると考えられます。
コスト削減や長時間労働問題の解決などに寄与できるほか、情報入力ミスなどのヒューマンエラーを減らす効果も期待できます。
医療機関利用者の負担軽減・利便性向上
医療のDX化は、医療従事者だけでなく、医療機関の利用者の負担軽減や利便性の向上にも寄与すると考えられます。
たとえば、通院予約や問診表記入をオンラインで出来るようになると、通院時の待ち時間の短縮に効果があります。
また、ビデオ通話やチャットなどを利用したオンライン診療も、利用者の利便性をアップする施策となるでしょう。
通院時の院内感染リスクを回避できるほか、体力面や遠隔地に居住しているなどの都合で通院が負担となる人も医療にアクセスしやすくなるという利点があり、地域間の医療格差問題の是正にも役立つと考えられます。
さらに、全国医療情報プラットフォームが構築され、医療機関の間で医療情報の共有を行えるようになれば、転居などで新たな医療機関にかかる際、一から症状を説明しなおさなければならない手間も省けるようになると見込まれています。
BCP強化
BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)とは、地震や洪水といった自然災害やテロのような人的災害など、緊急事態が発生した場合にも、被害を最小限にとどめ、事業を継続・復旧させるための計画のことです。
緊急時にも医療インフラを維持するために、病院のDX化を推し進め、BCPを強化しておくことは非常に有効であると考えられます。
たとえば、医療データの管理を紙のカルテや自社サーバのみで行っている場合、病院が火災や水害などで被災してしまった際にデータを喪失してしまうリスクがあります。
しかし、他のデータセンターにデータをバックアップ出来ていたり、クラウドサービスを利用したりしていれば、被災時でも医療サービスを提供し続けることや、迅速な復旧を行うことなども可能になります。
予防医療・健康増進に役立つ
医療DX推進によるメリットは、予防医療や健康増進の観点でも大きいと言われています。
個人の医療データを収集、活用することができれば、データ分析の結果に基づいた予防医療や、より適切な医療を行いやすくなります。
個人レベルでも、自分の受診・服薬の履歴や健診・検査の結果、アレルギー情報などをオンライン等で一元的に管理できるようになれば、健康管理に活用しやすくなるでしょう。
また、保険医療領域のビッグデータの活用が可能になれば、製薬会社や医療科学メーカーなど、医薬関連事業にも恩恵があると考えられます。創薬や治験など、新たな治療手段を開発する際に活用できるほか、予防・健康維持に関連した事業・サービスの開発にも役立つと考えられます。
これら予防医療や健康増進のための取り組みを促進することは、少子高齢化がすすみ、これから益々増大すると見込まれている医療社会保険制度の維持コストを抑えるためにも、たいへん意義があると言えるでしょう。
医療DXの課題
このように医療業界でDXを推進することには多くのメリットがありますが、さまざまな理由によって、先述の通り、他業種に比較して大きく遅れをとっているのが現状です。
現場スタッフのITリテラシー不足
医療業界においては、医療については詳しい知識を持っているスタッフでも、PC操作やITツールの利用には慣れていないというケースも良くあります。
対策としては、デジタルツールやシステムの導入を検討する際、PCに慣れていないスタッフも使用することを想定し、誰でも使いやすいものを選定することが有効です。
予算に限りがある
DXを進めたいという意向を持っている医療機関でも、デジタル化に使える予算が限定されてしまっているケースも多く見られます。
限られた予算でデジタル化をすすめるためには、業務の棚卸をし、費用対効果の高い業務から進めていくとか、優先順位をつけて、段階的に進めていくという方法も考えられます。DX関連のセミナーでよく行われている、実際の医療機関におけるIT導入事例の講演などの中にも、参考にできる内容があるかもしれません。
また、対象ツールを導入する場合には、経費の一部を補助するはIT導入補助金を利用することも可能です。
医療業界のDX導入事例
DX推進により医療現場の課題解決に寄与した当社事例をいくつかご紹介します。
【人事給与勤怠システム】導入による業務負荷軽減と時間短縮
滋賀県の3 次救急指定病院・社会福祉法人恩賜財団済生会滋賀県病院様では、地域支援医療のさらなる拡充をめざして職員を増員した結果、紙の申請書類を運用する煩雑な作業の負荷が大幅に増大してしまい、事務作業の効率化が急務となりました。
そこで、申請業務をペーパーレス・ワークフロー化するシステムを導入したところ、業務負担が大幅に軽減されたほか、申請処理にかかる時間も短縮することが出来ました。
システム選定のポイントとなった点としては、給与明細や年末調整など、申請業務以外の事務作業も一緒にデジタル化できる拡張性と、医療情報というセンシティブな情報を取り扱うにあたり、セキュリティ要件を満たしつつコスト面の条件も合っていた点が挙げられます。
> 人事給与勤怠システム導入事例詳細
問診表のデジタル化による業務効率アップと利便性向上
医療法人社団松和会池上総合病院様は、急性期医療から退院後まで、地域の中核病院として包括的な医療を提供する総合病院。
電子カルテ導入によりペーパーレス化は進んでいるものの、問診票や同意書は依然として紙に手書きで記入したものをスキャンして電子カルテに紐づける流れとなっており、事務スタッフにとっても患者様にとっても負担のかかる状態が続いていました。
課題を解決するため、展示会で知った【ARTERIAモバイルシステム】を導入し、問診表のデジタル化を行いました。ペーパーレス化を実現し、事務業務の負担が軽くなっただけでなく、患者様の待ち時間短縮にも寄与しました。
さらに医師にとっても、モニター上で問診表の内容確認を行えるため効率化につながり、初診時の症状などのデータを収集・分析することも出来るようになりました。
> ARTERIA AXIA導入事例詳細
電子カルテ導入による質の高い包括医療の実現
河野臨牀医学研究所 附属品川リハビリテーション病院様は、地域に根差した回復期・維持期のリハビリテーション医療を提供している医療型療養病院。
品川区との共同事業で地域包括ケアを実現する複合施設「品川リハビリテーションパーク」や介護老人保健施設なども運営しており、病院から在宅までシームレスな医療・介護・リハビリテーションを提供しています。
同病院では、医師、看護師、介護職、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、栄養士、薬剤師といった、それぞれ高度に専門分化した職員によるチーム医療の強化と、複雑化した業務プロセスの効率化を目指し、電子カルテとオーダリングシステムを導入しました。
システム導入により、職員間での正確でタイムリーな診療情報の共有が可能になり、チーム医療の質の向上に寄与した他、入院診療計画書の早期提供などの効果もありました。
> 電子カルテシステム事例詳細
システムリニューアルにより業務効率化と患者様とのコミュニケーション向上を実現
地域に密着した医療と充実した癌治療を提供する医療法人社団珠光会 聖ヶ丘病院様。
患者様とご家族のニーズを尊重したホスピスケアにも実績があり、終末期医療を在宅でも受けられるよう、地域の在宅医療クリニックとの緊密な連携も行っています。
同病院では、医療制度の複雑化に対応するために、電子カルテとオーダリングシステムのリニューアルを行いました。
その結果、職員間でのタイムリーな情報共有が可能となり、業務プロセスが改善しただけでなく、新機能を追加したことによって、化学療法の正確なデータがタイムリーに医師にフィードバックされるようになり、患者様とのコミュニケーション上でも効果がありました。
> 電子カルテシステム導入事例詳細
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